先日、ある社長からこんな相談を受けました。「来期から役員報酬を1000万円に上げようと思っているんです。会社の業績が上がってきたし、自分への還元もそろそろかなと」
気持ちはよくわかります。でも私はこう聞き返しました。「1000万円に上げると、手取りが今より減る可能性があるんですが、ご存知でしたか?」
社長は「え?」と目を丸くしていました。
1000万円もらって、手元に残るのは726万円
役員報酬1000万円を受け取ると、実際に手元に残るのはいくらになるか。計算してみると、驚く数字が出ます。
所得税・住民税・社会保険料を合算すると、合計で約274万円が天引きされます。残るのは726万円。1000万円受け取っているはずなのに、使えるお金は726万円にとどまるんです。
では800万円に設定した場合はどうか。手取りはおよそ593万円になります。一見、1000万円のケースより少ないですよね。でもここで、「差額の200万円をどう扱うか」が重要になります。
差額200万円は、会社に残して使い切る
役員報酬を1000万円から800万円に下げると、差額の200万円は会社に残ります。この200万円を個人に渡さず会社経費として使えば、法人税を支払う前に丸ごと活用することができます。
計算するとこうなります。
- 個人の手取り:593万円
- 会社で使える金額:200万円
- 合計の実質価値:793万円
1000万円にした場合の手取り726万円と比べると、67万円も多い。給料の設定を変えるだけで、年間67万円の差が生まれるんです。
なぜ「逆転」が起きるのか
日本の所得税は累進課税です。稼げば稼ぐほど、上乗せ分に対する税率が上がる構造になっています。
課税所得が900万円を超えると税率は33%に達します。役員報酬を800万円から1000万円に引き上げた場合、増えた200万円の大部分が税金として消えていきます。
一方、会社に200万円を残して経費として支出すれば、法人税率(中小企業なら概ね15〜23%程度)の範囲で使えます。個人で受け取ってから使うより、はるかに「コスパ」がいい。これが逆転の正体です。
「経費」として使える範囲は意外と広い
「でも会社の経費って何に使えるんですか?」とよく聞かれます。
出張旅費・宿泊費、書籍・セミナー費用、接待交際費、社用車の維持費、保険料の一部——こうしたビジネスに関連する支出は、正当に会社経費として計上できます。プライベートとの区別をきちんとしておけば、日常的な活動の中で広く使えます。個人の税引き後のお金で払うのと、会社の税引き前のお金で払うのとでは、実質的に使える金額がまるで違います。
役員報酬は「年に一度しか変えられない」
ここで一つ、重要なルールを押さえておいてください。役員報酬は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に決定し、その後は年間を通じて変更できません。これを「定期同額給与」といいます。
つまり、「やっぱり下げよう」「増やしたい」と後から思っても、基本的には手遅れです。だからこそ、「今期いくらに設定するか」の判断は、年に一度の非常に重要な意思決定になります。
業績見通しと税負担のバランスをしっかり試算したうえで、最適な金額を決める必要があります。
今の役員報酬額、一度立ち止まって考えてみてください
「とりあえず高ければいい」という思い込みで役員報酬を設定している社長は少なくありません。でも、累進課税の仕組みがある限り、「上げるほど手取りが増える」とは限らないんです。
自分がどの税率帯にいるのか、会社経費の使い方次第でどれだけ実質手取りが変わるのか——一度しっかり試算しておくことを強くおすすめします。次の事業年度の役員報酬を決めるタイミングが近いなら、今が動くべきときです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。