先日、こんな相談を受けました。

「決算前に役員報酬を増やしたら、翌年に税務署から追徴が来た。何が悪かったのか教えてほしい」

年商5億円の製造業を経営するN社長のケースです。決して珍しい話ではありません。役員報酬の仕組みをよく理解しないまま「利益が出たから報酬で取ろう」と動いてしまうと、意図とは真逆の結果を招いてしまいます。

決算3ヶ月前の「増額」が命取りになった

N社長がその年、役員報酬を増やした理由はシンプルでした。「利益が想定より出そうだから、法人税で取られる前に自分の報酬として受け取ろう」という発想です。

9月決算の会社だとすると、6月ごろに「今期はいけそうだ」と判断し、月額の役員報酬を100万円から250万円に増額。残り数ヶ月で月150万円×3ヶ月=450万円を追加で受け取る計算でした。

ところが翌年に税務調査が入り、増額分450万円が「損金不算入」と判定されました。法人税率を約33%として計算すると、追徴税額は約200万円。社長の言葉を借りれば「利益を減らすつもりが、逆に税金を増やした」という皮肉な結果になってしまいました。

役員報酬には「1年間固定」という大原則がある

なぜこうなるのか。その理由は、税法上の「定期同額給与」のルールにあります。

役員報酬を損金(経費)として認めてもらうためには、原則として事業年度開始後3ヶ月以内に決定し、その後1年間は同じ金額を支払い続ける必要があります。これが定期同額給与の要件です。

このルールが存在する理由は、決算直前に利益を都合よく圧縮するような報酬操作を防ぐためです。「今期は利益が出た。では報酬を増やして税金を減らそう」という行為を、税法が明確に封じているわけです。

N社長の場合、事業年度の途中(6月)に増額しているため、増額分は定期同額給与の要件を満たしません。結果として、増額した部分は損金として認められず、法人税の課税対象になってしまいました。

「損金不算入」が意味すること

「損金不算入」という言葉を噛み砕くと、「その支出は経費として認めない」ということです。

本来、役員報酬は会社の経費として損金算入され、法人の課税所得を圧縮します。しかし定期同額給与のルールを外れた増額分は、会社が実際に支払ったにもかかわらず、税務上は「なかったこと」として扱われます。

N社長の会社は450万円を追加で支払ったのに、税務上の利益は一切減らない——という状況に陥ったのです。その450万円に法人税がかかり、追徴として請求されてきた。これが今回のカラクリです。

役員報酬を変更できる「2つのパターン」

では、役員報酬はいつ、どのように変更すればいいのでしょうか。税法が認めているケースは大きく2つです。

1. 事業年度開始後3ヶ月以内の改定 もっとも一般的なパターンです。新しい期が始まってから3ヶ月以内に株主総会や取締役会で決議し、改定した金額で残りの1年間を固定します。

2. 業績の著しい悪化による改定 業績が明らかに悪化し、役員報酬を下げざるを得ない状況になった場合に限り、期中の変更が認められることがあります。ただし「悪化しそうだから」では認められず、すでに悪化している事実が前提です。

「利益が出たから増やしたい」という理由は、残念ながらどちらにも当てはまりません。

「今期は利益が出そう」と気づいたら、何をすべきか

決算前に利益が見えてきたとき、役員報酬の増額を考えるのは自然な発想です。でも、期中であれば今期はもう間に合いません。

やるべきことは、来期の役員報酬をどう設定するかを今から考えることです。今期の着地をシミュレーションしながら、来期の報酬額を事業年度開始から3ヶ月以内に決議する——これが唯一の合法的な手順です。

また、役員報酬以外にも決算前に使える節税手段はあります。設備投資の前倒し、消耗品の先行購入、要件を満たした決算賞与など、使えるカードは複数あります。税理士と一緒に「今期は何が使えるか」を早めに棚卸ししておくと、N社長のような事態は防げます。

期中に役員報酬の変更を考えている社長は、一度立ち止まってみてください。その変更が損金に算入できるかどうか——その判断が、数百万円の差を生むことがあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。