先日、飲食業を営む社長とお話しする機会がありました。「去年は苦しかったけど、今年はやっと黒字になったんですよ」と少し誇らしげに教えてくれたのですが、決算書を見て思わず固まってしまいました。

法人税の欄に、数百万円の納税額が並んでいたからです。

一言お聞きしました。「繰越欠損金の申告、されましたか?」——答えは「なんですか、それ?」でした。

赤字の年を「仕方なかった年」で終わらせていませんか?

法人税には、赤字を翌年以降の利益と相殺できる仕組みがあります。それが「繰越欠損金」です。

ひとことで言えば、赤字を最大10年間、黒字年度に持ち越せる制度です。赤字だった年にきちんと申告書を作成しておけば、翌年以降に黒字が出たとき、その赤字分だけ課税所得を減らすことができます。

多くの社長が「赤字の年は税金かからないからまあいいか」と思いがちですが、その翌年こそが節税の勝負どころです。赤字の年にやるべきことがある、というのが今日お伝えしたいポイントです。

1,000万円の赤字は、翌年230万円の節税になる

具体的な数字で考えてみましょう。

今期、1,000万円の赤字が出たとします。来期はV字回復して1,000万円の黒字になりました。繰越欠損金を使わなければ、この1,000万円にまるごと法人税がかかります。

法人税の実効税率はおよそ23%ですから、約230万円の税負担です。ところが、繰越欠損金を申告しておけば、今期の赤字1,000万円を来期の黒字と相殺できます。結果、課税所得はゼロ。法人税の支払いを大幅に減らせます。

「そんなことができるの?」と思われる方も多いのですが、これは税法に定められた正当な節税です。使わないのは、純粋にもったいない話です。

ポイントは「赤字の年の申告書」にある

ここで重要なのが、繰越欠損金は赤字が出た年に正しく申告していることが前提だという点です。

赤字だからといって適当に申告書を出してしまうと、後から繰越欠損金として使えなかった、というケースが起こります。申告書の「別表7」という様式に、欠損金額を正確に記載する必要があります。

また、繰越できる期間は「赤字が生じた事業年度から10年以内」と定められています。10年は長いように思えますが、業績が回復するタイミングや決算時期によっては、うっかり期限を超えてしまうこともあります。毎年の申告でどれだけの欠損金が残っているか、顧問税理士と定期的に確認しておくことをおすすめします。

青色申告の届け出は出ていますか?

もうひとつ確認しておきたいのが、「青色申告法人」になっているかどうかです。

繰越欠損金の10年繰り越しは、青色申告法人にのみ認められた特典です。白色申告の場合は使えません(一部例外あり)。多くの会社は設立時に届け出を済ませているはずですが、最近法人化したばかりの社長は念のため確認してみてください。

届け出を出し忘れていた場合でも、設立から2ヶ月以内であれば間に合うケースがあります。気になる方は早めに税理士に相談するのが得策です。

赤字年の翌年こそ、決算前の作戦が必要

繰越欠損金を最大限に活かすには、黒字になる年の決算前に利益の見込みを立て、どこまで欠損金で相殺できるかをシミュレーションしておくことが大切です。

場合によっては、役員報酬の設定や設備投資の時期を調整することで、さらに節税効果を高められることもあります。「去年は赤字だったから、今年は税金を減らせるかもしれない」——そのひと言を、決算の3〜4ヶ月前に税理士に相談できるかどうかが、数百万円の差を生むことがあります。

赤字が出た事業年度の申告書をまだ確認していない社長は、今すぐ顧問税理士に「繰越欠損金の残高はいくらですか?」と聞いてみてください。その一問が、思わぬ節税につながるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。