先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。

「毎年、決算前になって『もっと早く動いておけばよかった』と後悔するんですよ。何か手はありますか?」

こういうケースで必ず確認するのが、福利厚生費の使い方です。意外に思われるかもしれませんが、福利厚生費は「社員へのサービス」であると同時に、きちんと設計すれば全額損金に落とせる節税の手段でもあります。

ただし、なんでもOKというわけではありません。条件を満たさないと「給与扱い」になり、社員に税負担が生じてしまうこともある。今回はそのあたりの注意点も含めて、見落としがちな5つの経費を紹介します。


まず押さえたい基本:「全員対象」が鉄則

福利厚生費として認めてもらうには、特定の人だけが恩恵を受ける設計にしないことが基本です。社長だけ、役員だけ、一部の社員だけという形になると、税務署から「給与じゃないの?」と突っ込まれます。

これを頭に入れた上で、5つを見ていきましょう。


第5位:慶弔金(おめでとう・お悔やみのお金)

社員が結婚したとき、子どもが生まれたとき、あるいは身内に不幸があったとき——そこで支払う慶弔金は、社内規程があれば全額損金になります。

大事なのは「規程」があること。口頭でなんとなくやっているだけでは、税務調査で否認されるリスクがあります。「結婚祝い金3万円、出産祝い金2万円、弔慰金5万円…」といった形で、金額と対象を明文化した慶弔見舞金規程を整備しておきましょう。

社員の数が少ない会社ほど、こういうルールが口頭で回りがちです。1枚の書類でリスクが消えるので、まだ作っていない会社は今すぐ整備することをおすすめします。


第4位:全社員対象の健康診断費

年1回、全社員を対象に実施する定期健康診断の費用は、そのまま福利厚生費に計上できます。これは比較的知られているのですが、意外と漏れているのがオプション検査の費用です。

胃カメラや血液検査のオプションを会社負担にしている場合も、全社員に同様の機会を与えているなら福利厚生費として認められるケースがあります。

ただし、特定の社員だけオプション費用を負担したり、検診結果を会社が管理・利用する形になると話が変わってきます。「会社が全員のために費用を出している」という形を崩さないことが重要です。


第3位:業務に関連した資格取得費

社員が業務に必要な資格を取得する際の費用——受験料、テキスト代、通信講座費など——は、業務との関連性が明確であれば全額損金にできます。

「営業職が宅建を取得する」「経理担当が日商簿記を受験する」「ITエンジニアがベンダー資格を取る」といったケースが典型です。

注意が必要なのは、業務との直接的な関連性です。まったく業務と関係のない趣味的な資格まで会社が負担すると、給与扱いになりかねません。社員が「なぜその資格が必要か」を説明できる形を会社側でも整えておくと安心です。


第2位:社員旅行(慰安旅行)

ここが少し細かいのですが、条件を満たせば社員旅行も福利厚生費として損金計上できます。税務上の目安は3つです。

  • 旅行期間が4泊5日以内であること
  • 全社員の参加率が50%以上であること
  • 1人あたりの費用が10万円程度以内であること(目安)

この3つを外れると、「給与として課税すべき」と判断されやすくなります。とくに参加率は意識しておきたいポイントです。「参加したい人だけ」という任意旅行だと参加率が下がりやすいため、会社として意図的に全員参加の場を設計することが大切です。

旅行を計画する際は、事前に税理士へ相談しておくとより安心です。


第1位:社長自身の人間ドック

「自分のことは経費にできない」と思っている社長も多いのですが、実は35歳以上の社長が年1回受ける人間ドックは、福利厚生費として全額損金になる可能性があります

ポイントは2つ。ひとつは、役員・従業員全員に機会を与えること(35歳以上の社員全員が受けられる制度として設計する)。もうひとつは、費用が常識的な範囲に収まることです。

人間ドックの相場は3〜5万円程度ですが、高度なオプション検査を積み重ねて20万円・30万円になると、「福利厚生ではなく給与だ」と判断されるリスクが高まります。「健康管理のために会社が費用を負担する」という趣旨から外れないことが重要です。

条件は細かいので、自社の状況を税理士に確認した上で制度設計することをおすすめします。


今期中に動くための3ステップ

紹介した5つの経費に共通するのは、「制度として設計する」ことの重要性です。なんとなく払っているだけでは、税務調査で否認されるリスクが残ります。

  1. 社内規程を整備する(慶弔見舞金規程、旅費規程など)
  2. 全社員に等しく機会を与える設計にする
  3. 税理士と一度確認する(特に人間ドックや社員旅行)

この3ステップを踏むだけで、毎年「もっと早く動けばよかった」という後悔はかなり減らせます。

特に慶弔金規程や健康診断の整備は時間もコストもかからないので、今期中に動いておくのが断然おすすめです。


※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。