先日、製造業を経営する社長からこんな話を聞きました。

「去年、社員の給料を少し上げたんです。採用競争もあるし、インフレも続いているし、仕方ないかなと思って。でも決算後に税理士から『今年は180万円ほど法人税が減りますよ』と言われて、びっくりしました」

給料を上げたのに、税金まで減った。そんな都合のいい話があるのか——と思われるかもしれません。でも実際にあるんです。「賃上げ促進税制」という制度が。

賃上げで税金が返ってくる仕組み

この制度、シンプルに言うと「前の年より社員の給料を増やした分、その一部を法人税から直接引いてもらえる」というものです。

税額控除というのがポイントで、経費に算入するのではなく、計算された税額からそのまま差し引かれます。節税効果がダイレクトに出るのが特徴です。

中小企業の場合、増加した給与総額の最大45%が控除されます。45%というのはかなり大きい数字です。たとえば給与総額が400万円増えていれば、最大で180万円が税額から消えます。冒頭の社長の話はまさにこのケースでした。

年商3億円規模で、社員の平均給与を前年比2%引き上げた。増加分の人件費に対して45%の控除が適用された結果、180万円の節税につながったというわけです。

控除率が変わる「条件」がある

ただし、45%というのはあくまで「最大値」です。控除率は条件によって変わります。

基本の控除率は15%で、ここから加算があります。給与増加率が1.5%以上なら25%、2.5%以上なら30%が基本ライン。さらに「教育訓練費を前年比5%以上増やした」「くるみん・えるぼし認定を取得している」といった条件を満たすと、最大で45%まで積み上がります。

要するに、賃上げ幅が大きいほど、人への投資を増やしているほど、控除が厚くなる設計です。給与を上げるだけでなく、研修費の増加とセットで考えると控除率がぐっと上がります。

2027年3月まで——今が動き時の理由

この制度には期限があります。現在の税制では2027年3月末までが適用期間です。

「まだ時間があるじゃないか」と思うかもしれませんが、賃上げというのは年度の途中から急にできるものではありません。就業規則の改定、社員への説明、タイミングの調整……準備には一定の時間が必要です。

しかも大事なのは「前年比でいくら増えたか」なので、今期の賃上げが来期の申告に効いてきます。動くなら今期中、できれば上半期のうちに判断しておくのが賢明です。

見落としがちな3つのポイント

実務で相談を受けていると、よく引っかかるポイントがあります。

まず「給与等支給額」の定義です。パートやアルバイトも含めた給与総額が対象になりますが、役員報酬は含まれません。社長自身の報酬を増やしても控除には関係ない、という点は意外と見落とされます。

次に「雇用者全体」を見るという点。一部の社員だけ上げても、会社全体の給与総額が前年を下回っていれば制度の対象外になります。採用減や退職が多かった年は注意が必要です。

そして「適用漏れ」の問題。賃上げ促進税制は申告書に所定の明細書を添付して初めて適用されます。条件を満たしていても、申告時に税理士に伝えていなければ控除が受けられないまま終わります。決算前に「今年は賃上げしましたか?」と確認する習慣をつけておくといいでしょう。

採用・定着と節税を同時に取りに行く

賃上げ促進税制の面白いところは、「人材投資」と「節税」が矛盾しない点です。

優秀な人材を採用・定着させるために給与水準を上げる。その判断が、結果として税負担を軽減する。中小企業が人手不足と戦う時代に、制度設計としてうまくできているなと感じます。

「給料を上げたいけど、コストが怖い」と感じている社長ほど、この制度を知っておく価値があります。180万円の節税は、追加した人件費の一部を国が肩代わりしてくれているようなものだからです。

今期の賃上げをまだ検討中であれば、一度顧問税理士に「うちは賃上げ促進税制の対象になりますか?」と確認してみてください。試算してもらうだけでも、判断材料が大きく変わります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。