先日、ある製造業の社長からこんな連絡が届きました。「決算前に報酬を少し変えたんですが、問題ないですよね?」——その一言で、私は少し心配になりました。

役員報酬の変更は、やり方を間違えると節税効果がゼロになるどころか、税務調査を呼び込む火種になります。「会社のお金だから自由に決められる」と思っている社長ほど、落とし穴にはまりやすい。

今回は、税務調査でよく問題になる「役員報酬変更の3つのミス」を順番にご紹介します。


ミス3位:期の途中で報酬を引き上げた

役員報酬を損金(経費)として認めてもらうには、「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。簡単に言うと、事業年度が始まってから3ヶ月以内に金額を決め、その後は毎月同じ額を払い続けるというルールです。

「今月から業績が伸びてきたから、報酬を月50万から80万に上げよう」——これが期の途中だと、増額分の30万円は損金に算入できません。つまり、法人税の節税効果がまるごと消えてしまいます。

変更のタイミングは、新しい事業年度が始まってから3ヶ月以内。これが鉄則です。決算が3月末の会社なら、4〜6月中に変更を決議する必要があります。


ミス2位:変更したのに議事録を作っていない

「変更のタイミングは合っていた。でも税務調査で否認された」——こういうケースで必ずと言っていいほど出てくるのが、議事録の欠如です。

役員報酬の変更は、株主総会や取締役会での決議が必要です。そしてその決議を証明するのが議事録。税務調査では、この書類が「いつ、誰が、何を決めたか」を示す証拠になります。

「口頭で決めた」「LINEで共有した」では通りません。たとえ一人社長の会社でも、変更を決めたその日に書面を残す習慣をつけてください。形式は難しくなくて構いません。日付・出席者・決議内容が明記されていれば十分です。


ミス1位:報酬を下げた直後に退職金を積み増した

これが一番やっかいなミスです。「退職金を多くもらうために、直前に報酬を下げる」という設計をしようとして、逆効果になるパターンです。

退職金の税務上の適正額は、次の計算式が基準になります。

最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率

報酬を月100万円から60万円に下げてから退職すると、計算の基準となる「最終報酬月額」が60万円になります。結果として退職金の適正額が下がり、節税効果も目減りする。

さらに、「報酬を下げてすぐ退職」という動きは税務署にも不自然に映ります。実態のない操作と判断されると、退職金全体が否認されるリスクもゼロではありません。

退職金の設計は、少なくとも数年単位で計画的に行う必要があります。「そろそろ引退を考えている」という段階になってから慌てて動くのではなく、在任中の報酬水準と退職までの期間を逆算して、早い段階から税理士と一緒に設計しておくのが王道です。


役員報酬の変更、3つの確認ポイント

以上を整理すると、変更の際に確認すべき点は次の3つです。

  • タイミング: 事業年度開始から3ヶ月以内か?
  • 証拠書類: 議事録を当日中に作成したか?
  • 退職金との整合性: 報酬変更が将来の退職金設計に影響しないか?

この3点を押さえておくだけで、税務調査で慌てるリスクはぐっと下がります。


役員報酬は、正しく設計すれば法人税・所得税・社会保険料のバランスを最適化できる強力なツールです。ただし、「自分の会社だから自由に変えられる」という感覚で動くと、思わぬところで足をすくわれます。

今の報酬額が本当に最適かどうか、一度税理士と一緒に見直してみることをおすすめします。特に退職金の設計は時間が武器になります。早めに動いた社長ほど、選択肢が増えます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。