先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「去年ようやく黒字に戻ったのに、法人税がドカッと来て資金繰りが苦しくて……」

話を聞いてみると、その前年に約300万円の赤字を出していたにもかかわらず、繰越欠損金の申告をしていなかったのです。結果として、翌年の黒字300万円にまるまる課税され、数十万円単位の税金を「払わなくてよかったはずなのに」払ってしまっていました。

こういうケース、実は珍しくありません。

赤字は「損」で終わらせない

会社が赤字になった年、多くの社長は「今期は仕方ない、来年挽回しよう」と気持ちを切り替えます。それ自体は正しい姿勢ですが、税務上の手続きも同じように「終わり」にしてしまうのは大きなもったいないです。

法人税には「繰越欠損金」という制度があります。簡単に言うと、赤字になった年の損失を翌年以降に持ち越して、将来の黒字と相殺できる仕組みです。中小法人であれば、この繰越期間は最大10年間。つまり、今年出た赤字は、10年先まで「節税の武器」として手元に残しておけるということです。

具体的にどれくらい得をするのか

たとえば、ある年に300万円の赤字が出たとします。その翌年、事業が回復して300万円の黒字になったとしましょう。

繰越欠損金を活用していれば、黒字の300万円と赤字の300万円が相殺されて、課税所得はゼロ。法人税の負担をほぼなくすことができます。

一方、繰越欠損金の申告をしていなければ、300万円の黒字にそのまま課税されます。実効税率を約25〜30%とすると、75万円〜90万円の税金が発生する計算です。この差は決して小さくありません。

「知っているかどうか」だけで、こんなに結果が変わってくるのが税務の世界です。

使うために必要な「たった一つの条件」

この制度を使うために特別な節税スキームは不要です。ただし、絶対に外せない条件が一つあります。

それは、赤字が出た年の法人税申告書に、欠損金額をきちんと記載して申告することです。

赤字だからといって申告を疎かにしたり、申告書への記載を省略してしまうと、繰越欠損金として認められません。また、青色申告法人であることも要件のひとつです。白色申告の法人は繰越控除の対象外になりますので、この点も確認が必要です。

さらに、毎年継続して申告書を提出していることも求められます。「去年は忙しくて申告が遅れた」「一度だけ無申告になってしまった」という年があると、その前後の繰越欠損金に影響が出る可能性があるので要注意です。

決算が終わってからでは手遅れのことも

よくある誤解が、「黒字になった翌年に税理士に相談すればいい」というものです。しかし、繰越欠損金は赤字が出たその年の申告がすべての起点になります。

赤字の年にきちんと記載して申告していなければ、後から「やっぱり使いたい」と思っても遡って適用することはできません。気づいたときにはもう使えない、というのが最も多いパターンです。

だからこそ、赤字になった年の決算前に顧問税理士と「繰越欠損金の申告をするかどうか」を確認しておくことが大切です。この一手間が、数年後の税負担を大きく左右します。

黒字転換の年こそ、使い方を設計する

繰越欠損金は持っているだけでは意味がなく、黒字と相殺して初めて効果を発揮します。そのため、「今期は黒字になりそうだ」という年に、どのくらいの欠損金が残っているかを把握しておくことが重要です。

残っている欠損金の額によっては、今期の利益をどこまで出すか、あるいは他の節税手段と組み合わせてどう設計するか、という戦略が変わってきます。決算2〜3ヶ月前に顧問税理士と数字をすり合わせる習慣をつけておくと、こうした設計がスムーズになります。

今すぐ確認してほしいこと

過去に赤字の年があった社長は、今すぐ以下の点を確認してみてください。

  • 赤字が出た年の申告書に欠損金額が記載されているか
  • 現在、繰越欠損金がいくら残っているか
  • 今期の着地予想と相殺できる金額はいくらか

これらを税理士と一緒に確認するだけで、今後の納税額が大きく変わる可能性があります。赤字の年を「辛い思い出」で終わらせず、「将来の節税資産」として活かしてほしいのです。

繰越欠損金はシンプルながら、知っているかどうかで数十万〜数百万円の差が生まれる制度です。まだ確認していないなら、次の決算前に必ず顧問税理士に聞いてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。