先日、飲食業を経営する社長からこんな相談を受けました。\n\n「コロナ禍の2年間でかなり赤字を出したんですが、去年ようやく黒字に戻りました。でも法人税がドンと来て……なんか損した気分なんですよね」\n\n話を聞いてみると、過去の赤字がそのまま”眠った状態”になっていたんです。繰越欠損金として申告はしていたものの、黒字の年に活用するという発想がなかった。これ、実はかなり多くの社長が陥っているパターンです。\n\n---\n\n## その赤字、10年間は「資産」になります\n\n法人税の世界には「繰越欠損金」という制度があります。ざっくり言うと、赤字が出た年の損失を、翌年以降の黒字と相殺できる仕組みです。\n\n「赤字になったのはしょうがないとして、それを将来の税金に使えるなんて知らなかった」という声をよく聞きます。でも知らないまま放置すると、使えるはずだった節税の機会が、文字どおり「消滅」してしまいます。\n\n繰越できる期間は最大10年。ただし、古い欠損金から順番に使っていかないといけないというルールがあります。気づかないうちに期限切れになっていた、という事態が実際に起きています。\n\n---\n\n## 落とし穴①:期限切れに気づかず、欠損金を消してしまう\n\n繰越欠損金を申告していても、それを「使う」意識がないと意味がありません。\n\n10年という期間は一見長いように思えますが、事業が忙しくなると決算書を税理士に任せきりにして、細かい確認をしなくなる社長も少なくありません。その間に、古い年度の欠損金がひっそりと失効していることがあります。\n\n毎期の決算時に「今期使える欠損金はどの年度のものか」「残りの繰越期間は何年か」を確認する習慣をつけることが大切です。これは顧問税理士に一覧表を作ってもらうだけでだいぶ変わります。\n\n---\n\n## 落とし穴②:黒字の年こそ使いどきなのに、動かない\n\n「黒字が出てよかった」と胸をなでおろす社長は多いですが、実はその瞬間こそが繰越欠損金の活用タイミングです。\n\n利益が1000万円出た年に、繰越欠損金が1000万円残っていれば、課税所得をゼロに近づけることができます。法人税率が約23%とすると、それだけで230万円規模の税負担が変わってくる計算です。\n\nこれを「来期も黒字になりそうだから来期使えばいいか」と先送りにしてしまう社長がいますが、欠損金に残高がある限り、使えるときに使うのが鉄則です。来期に使える保証はどこにもありません。\n\n---\n\n## 落とし穴③:中小企業だけの「全額控除」を知らない\n\nこれが一番もったいないと感じる落とし穴です。\n\n実は、繰越欠損金による控除には大企業と中小企業で大きな差があります。資本金が1億円を超える大企業の場合、欠損金で相殺できるのは黒字の最大50%まで。つまり、どんなに欠損金が残っていても、利益の半分には必ず税金がかかります。\n\nところが資本金1億円以下の中小法人は、黒字の100%を繰越欠損金で相殺できます。極端に言えば、課税所得をゼロにすることも制度上は可能です。\n\nこの違いを知らないまま「うちは欠損金があっても半分しか使えないんでしょ」と思い込んでいる中小企業の社長が、実際にいます。中小企業には別格の優遇措置があることを、ぜひ頭に入れておいてください。\n\n---\n\n## 欠損金は「申告した年」が起点になります\n\nひとつ注意点を。繰越欠損金を使うためには、赤字が出た年に青色申告をしていることが前提条件です。白色申告では繰越控除の適用を受けられません。\n\nまた、繰越欠損金の計算は申告書の別表上で行われるため、「なんとなく黒字になったから相殺されてるはず」では危険です。きちんと処理されているかどうか、申告書の内容を税理士と一緒に確認することをおすすめします。\n\n---\n\nコロナ禍や原材料高で赤字を経験した中小企業は、この数年でかなり増えました。その痛みをせめて税務上の「資産」として最大限使い切ることが、経営者として賢い選択です。\n\n決算が近い方は、今すぐ顧問税理士に「繰越欠損金の残高と期限を確認させてください」と一言伝えてみてください。その一言が、数百万円の節税につながることがあります。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。