先日、飲食業を営む社長からこんな話を聞きました。「うちは接待も多いし、交際費はだいぶ使ってるんだけど、800万円の枠があるのは知ってる。でも、それ以上は諦めてるんだよね」と。

聞けば、2024年に交際費まわりのルールが大きく変わったことを、まったく知らなかったそうです。これ、実はかなりもったいない話なんです。

「5,000円以下」が「1万円以下」になった

交際費の中でも、一定の条件を満たした飲食費は損金に算入できる――という仕組みは以前からありました。ただ、その基準がずっと「1人あたり5,000円以下」だったんです。

ところが2024年の税制改正で、この基準が1人あたり1万円以下に引き上げられました。シンプルに言えば、倍になったということです。

たとえば得意先との会食で、1人あたり8,000円の飲食代が発生したとします。以前なら「交際費」として処理するしかなかったのが、改正後は損金算入できる飲食費として扱えるようになります。外食単価が上がっている昨今、5,000円という基準はそもそも実態に合っていなかったので、ようやく現実に追いついてきた感じですね。

中小企業が選べる「2つのルール」

ここで整理しておきたいのが、中小企業における交際費の損金算入には、現在2つの選択肢があるという点です。

ひとつは従来からある年間800万円まで全額損金にできるルール。もうひとつが、接待飲食費の50%を損金算入できるルールです。この2つは選択適用が可能で、どちらが有利かは会社の状況によって変わってきます。

年間の接待飲食費が比較的少なく、1,600万円に届かないような規模であれば、800万円の全額損金枠のほうが有利になることが多いです。一方、接待飲食費が年間1,600万円を超えてくるような場合は、50%算入のほうが税負担を抑えられるケースも出てきます。

どちらを選ぶかで、課税所得は数十万円単位で変わることがあります。「なんとなく毎年同じルールで処理してた」という会社は、一度試算し直してみる価値が十分あります。

要件は厳しいまま。ここだけは絶対に外さない

改正で有利になった部分がある一方、損金算入するための要件は以前と変わっていません。むしろここを甘く見ると、せっかくの節税効果がゼロになってしまいます。

飲食費を損金に算入するためには、領収書や支払記録に以下の情報を必ず記載しておく必要があります。

  • 飲食の年月日
  • 参加した取引先の氏名・会社名
  • 参加人数
  • 飲食の目的(どんな商談・関係強化のためか)
  • 飲食店の名称と所在地

特に「参加人数」と「目的」の記載漏れは税務調査でよく指摘されます。社員同士の飲み会を接待費として処理しているケースも見受けられますが、それは認められません。あくまで「社外の取引先等との飲食」が対象です。

自社にとってどちらが得か、試算してみてほしい

800万円全額損金と50%算入の選択は、毎期の交際費の使い方によって最適解が変わります。「去年と同じでいいや」と思考停止するのが一番もったいない。

たとえば期中に大型の接待が増えたり、新規開拓で飲食費がかさんだりした年は、50%算入に切り替えたほうが有利になることもあります。逆に交際費が少ない年は全額損金枠のほうが圧倒的にシンプルで得です。

この判断は決算が近づいてから慌てるのではなく、年の途中から概算で追いかけておくのがベストです。顧問税理士がいる方は、今期の交際費の着地見込みをもとに、どちらのルールを適用するか早めに相談しておくことをおすすめします。

「知らなかった」で損するのが一番もったいない

税制改正は毎年のように行われますが、すべてを追いかけるのは経営者として現実的ではありません。ただ、交際費のように日常的に使う経費に関わる改正は、知っているだけで即お金になる話です。

「うちは交際費なんてたいして使ってないし」という社長も、1万円基準になったことで今まで交際費扱いにしていた飲み代が損金算入できるようになるケースがあります。過去の処理をさかのぼることはできませんが、今期からの運用を見直すだけでも十分意味があります。

2024年改正の内容を自社の税理士にまだ確認していないなら、次の打ち合わせで「交際費のルール変更、うちにどう影響しますか?」と一言聞いてみてください。その一言が、思わぬ節税につながることがあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。