先日、都内で飲食業を営む社長からこんな相談を受けました。「毎月30万円の家賃、ずっと自分の財布から払ってるんですけど、これって普通ですか?」

その一言を聞いて、正直もったいないなと思いました。同じ30万円を払うにしても、「誰が契約して、誰がどう支払うか」によって、手元に残るお金はまったく違ってくるからです。

自腹で家賃を払うと、実は倍近く稼いでいる

月30万円の家賃を社長個人で支払う場合、その原資は「給与からの手取り」です。役員報酬には所得税・住民税・社会保険料が合計で40〜50%近くかかります。

つまり、30万円の家賃を払うために、実際には月55〜60万円ほどの報酬が必要な計算になります。年間にすると、家賃360万円を払うために700万円前後の報酬が必要、ということです。

この「見えないコスト」に気づいていない社長が、実はとても多いのです。

会社が社宅を契約すると、何が変わるのか

結論から言うと、同じ物件に住みながら、支払いの構造を変えるだけで大きく節税できます。

仕組みはシンプルです。会社が賃貸契約を結び、その物件を「役員社宅」として社長に貸し出します。社長は会社に対して「賃料相当額」を支払い、残りは会社の経費として計上する、という流れです。

ここで重要になるのが「賃料相当額」の計算です。税法上、一定の計算式で算出された金額を社長が会社に支払えば、差額は給与として課税されません。社宅のグレードによって計算式は異なりますが、いわゆる「小規模住宅」に該当する物件であれば、実際の家賃の10〜20%程度が自己負担の目安になることが多いです。

月30万円の家賃で試算すると

具体的に数字で見てみましょう。

月30万円の家賃を会社が契約し、社長が賃料相当額として月4〜5万円を会社に支払うケースを考えます。差額の25万円前後は会社の経費です。

自己負担は年間で50〜60万円ほど。もし全額自腹で払っていたら360万円必要だったわけですから、単純計算で300万円以上の支出が圧縮されます。税負担を加味した実質的な手取り改善額は、年間100万円を超えるケースも珍しくありません。

同じ家に住んで、同じ生活水準を保ちながら、手取りが年100万円変わる。これが役員社宅の本質的なインパクトです。

「小規模住宅」かどうかが分かれ目

役員社宅の節税効果を最大化するうえで、物件の規模は非常に重要な要素です。

税法上の「小規模住宅」とは、木造なら床面積132㎡以下、それ以外の構造なら99㎡以下が目安とされています。この基準を満たす物件であれば、自己負担の計算式が有利になり、節税効果が高くなります。

一方、これを超える広い物件や豪華社宅に該当するケースでは、計算方法が変わり、場合によっては節税効果が薄れることもあります。物件選びの段階から「小規模住宅に収まるか」を意識しておくことが大切です。

やり方を間違えると、まるごと給与課税される

ここで注意点も正直にお伝えしておきます。

役員社宅は正しく設計すれば強力な節税手段になりますが、設定を誤ると社宅として認められず、家賃相当額の全額が役員報酬とみなされる可能性があります。その場合、節税どころか余計な税負担が生じてしまいます。

特に気をつけたいのは以下の点です。

  • 賃料相当額を会社に支払っていない(無償で住んでいる)
  • 計算の根拠が不明確で、税務調査時に説明できない
  • 契約名義が個人のまま変えていない

「なんとなくやっている」状態が一番危険です。必ず税理士と一緒に計算式を確認し、適正な自己負担額を設定したうえで運用してください。

今の家賃契約を見直す価値がある

役員社宅は、新たに物件を探さなくても活用できます。今住んでいる物件の契約を法人名義に切り替えるだけで、同じ効果が得られるケースも多いです。

引越しも、贅沢な生活も必要ない。ただ「誰の名義で契約するか」を変えるだけで、年間100万円前後の手取り改善が見込めるとしたら、試してみない手はないと思います。

まだ自腹で家賃を払っているなら、今期中に一度、税理士に「役員社宅にできますか?」と聞いてみてください。それだけで、あなたの報酬設計は大きく変わるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。