先日、創業8年目という製造業の社長からこんな相談を受けました。
「会社にお金は残っているんですが、自分の退職金って何も準備してないんですよね。今さらどうにかなりますか」
役員報酬から生活費を差し引いて、残りは会社に置きっぱなし。退職金の準備は「そのうち考える」と後回しにしてきた、というのはよくあるパターンです。
そこで真っ先に検討をおすすめしたのが、小規模企業共済でした。
月7万円が全額所得控除になる仕組み
小規模企業共済は、経営者や個人事業主のための積立制度です。掛金は月1,000円から7万円まで、500円刻みで自由に設定できます。
ポイントは、この掛金が全額所得控除になるということです。仮に月7万円、年間84万円を積み立てたとすると、その84万円がまるごと所得から差し引かれます。
課税所得が900万円クラスの社長であれば、所得税・住民税を合わせた実効税率はおよそ33%前後になります。単純計算で年間28万円ほど税負担が軽くなる、というイメージです。
積み立てながら税金も減らせる。この二重の効果が、多くの経営者に選ばれている理由です。
受け取るときは「退職所得」扱いになる
積み立てたお金は、役員を退任したときや会社を廃業したときに、共済金として受け取れます。
ここで見落とされがちなのが、受け取り方によって税金の扱いが変わるという点です。一括で受け取る場合、共済金は退職所得として扱われます。
退職所得には「退職所得控除」という大きな非課税枠があり、さらに残った金額も2分の1にしてから課税されるという優遇があります。給与としてもらうよりも、税負担がかなり軽くなる可能性が高いのです。
会社から支払う正規の役員退職金とは別に、いわば自分名義でコツコツ積み立てる「もう一つの退職金」を作れる。これが小規模企業共済が「非公式の退職金」と呼ばれるゆえんです。
見落とせない元本割れのリスク
良い話ばかりではありません。加入から20年未満で任意解約をすると、受け取れる金額が払い込んだ掛金を下回るケースがあります。
たとえば加入10年で資金繰りが厳しくなり、解約して手元資金に回そうとした場合、積み立てた分がそのまま戻ってこない可能性がある、ということです。
これは「税金が減って得をする制度」という側面だけを見て加入すると、思わぬところでつまずくポイントです。あくまで長期の積立を前提とした制度だと理解しておく必要があります。
一方で、廃業や役員退任など正当な事由による受け取りであれば、この元本割れの心配は基本的にありません。無理のない金額で、長く続けられる前提で設計することが大切です。
月7万円という金額の考え方
上限の月7万円を必ず使う必要はありません。会社の資金繰りや個人の生活費とのバランスを見ながら、無理なく続けられる金額から始めるのが現実的です。
途中で増額することもできるので、まずは月1万円や2万円からスタートして、業績が安定してきたタイミングで上限に近づけていく、という進め方をしている経営者も多く見かけます。
退職金の準備を後回しにしてきた自覚があるなら、小規模企業共済は検討する価値のある選択肢です。まだ加入していないなら、次の決算を待たずに一度、掛金の設定を試算してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。