先日、開業4年目のITコンサルタントの社長から、こんな相談を受けました。

「個人事業のままでいいのか、そろそろ法人化すべきなのか、正直よくわからないんです」

売上が安定して伸び始めた時期に、この悩みを抱える方は本当に多いです。結論から言うと、あるタイミングを境に法人化した方が手元に残るお金が大きく変わるケースがあります。実際、法人化してから2年間で税負担の差が約660万円になった社長の例もあります。

なぜ個人事業のままだと不利になるのか

個人事業主にかかる所得税は、稼げば稼ぐほど税率が上がる累進課税です。所得が増えるにつれて段階的に税率が上がり、最も稼いでいる層では最大45%まで達します。

ここに住民税もかかってきますから、利益の半分近くを税金として納めている感覚になる社長も少なくありません。

一方、法人の場合は事情が異なります。中小企業向けの軽減税率が適用されるケースでは、法人税の実効税率がおよそ15%前後に収まることがあります。もちろん所得の水準や事業の内容によって条件は変わりますが、この税率差そのものが法人化の大きな動機になります。

660万円の差はどうやって生まれたのか

先ほどの相談者と似た状況の社長の例では、法人化にあたって役員報酬と法人に残す利益のバランスを丁寧に設計しました。

全部を役員報酬として受け取ってしまうと、結局は所得税の累進課税に巻き込まれてしまいます。逆に法人に利益を残しすぎると、今度は法人税の負担が重くなります。

この社長のケースでは、役員報酬を所得税率が急激に跳ね上がらない水準に抑えつつ、残りの利益は法人内に置くという分け方をしました。その結果、2年間トータルで見たときの税負担が、個人事業のままだった場合と比べて約660万円軽くなったというわけです。

金額だけを見ると特別な裏技のように感じるかもしれませんが、実際にやっていることは「所得税と法人税、それぞれの税率カーブを踏まえて配分を最適化する」という、いたってシンプルな考え方です。

それでも「今すぐ法人化」とは言えない理由

ここまで聞くと、今すぐ法人化した方がいいと思うかもしれません。ですが、少し立ち止まってほしいポイントがあります。

法人化すると、これまで個人事業主として自分で負担していた社会保険料の一部を、会社側も負担することになります。役員報酬の額によっては、この会社負担分がじわじわと重くのしかかってきます。

さらに、法人には利益が出ていなくても毎年支払わなければならない均等割という税金があり、最低でも7万円程度がかかります。個人事業では発生しなかったコストです。

加えて、決算や税務申告の事務負担、社会保険の手続きなど、法人特有の管理コストも増えます。こうした費用を差し引いても税負担の軽減メリットが上回るかどうかを、事前にシミュレーションしておく必要があります。

法人化を検討するタイミングの目安

一般的には、所得税の税率が法人税の実効税率を明確に上回ってくる利益水準に達したあたりが、法人化を具体的に検討し始める目安とされています。

ただし、業種や家族構成、将来の事業計画によっても最適なタイミングは変わってきます。今回の660万円という差も、あくまでその社長個人の状況における一例であり、誰にでも同じ結果が出るわけではありません。

大切なのは、目先の税率差だけで判断せず、社会保険料や均等割といった法人特有のコストも含めたトータルの損得で考えることです。

もし今、個人事業の利益が伸びてきて法人化が気になり始めているなら、一度自分の数字でシミュレーションしてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。