決算期が近づくたびに、経理担当者から「今月も仕入の消費税を全部拾い集めなきゃいけないんですよね」とため息交じりに相談を受けることがあります。

領収書やインボイスを一枚一枚めくって、課税仕入かどうかを判定し、消費税額を集計する作業は、規模の大きくない会社ほど負担が重く感じられるものです。

この手間を大きく減らせる制度が「簡易課税」です。存在は知っていても、実際にどんな仕組みで、どんな会社が使えるのかを正確に理解している経営者は意外と少ないので、今日はその中身を整理してみます。

みなし仕入率で計算する仕組み

通常の消費税計算(本則課税)は、売上にかかる消費税から、実際に支払った仕入・経費の消費税を差し引いて納税額を出します。この「実際に支払った分」を正確に集計するのが、地味に手間のかかる作業です。

簡易課税では、この実際の仕入集計を省略できます。代わりに、業種ごとにあらかじめ決められた「みなし仕入率」を売上にかける形で、仕入税額を計算したものとみなします。

みなし仕入率は業種によって40%から90%まで6段階に分かれています。卸売業なら90%、小売業なら80%、製造業なら70%、といった具合です。実際の仕入がいくらだったかに関わらず、この率で機械的に計算できるので、日々の記帳がぐっと楽になります。

使える会社には条件がある

どの会社でも選べるわけではなく、基準期間(原則として2期前)の課税売上高が5,000万円以下であることが条件です。この基準を超えている場合は、本則課税で計算するしかありません。

条件を満たしている会社が簡易課税を使うには、事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しておく必要があります。原則として、適用を受けたい課税期間が始まる前日までに届出を済ませておかなければなりません。うっかり期限を過ぎてしまうと、その年は本則課税のままになってしまうので注意が必要です。

本則課税と比べて本当に有利かを試算する

ここで見落とされがちなのが、「簡易課税は必ず得をする制度ではない」という点です。

みなし仕入率はあくまで業種平均をもとにした概算なので、実際の仕入や経費がその率より多い会社にとっては、本則課税のほうが納税額が少なくなるケースもあります。たとえば大きな設備投資を予定している期は、実際の仕入税額控除のほうが有利になることが少なくありません。

さらに厄介なのが、一度簡易課税を選択すると、原則として2年間は本則課税に戻せないという縛りです。目先の事務負担の軽さだけで飛びつくと、多額の設備投資をした年に本則課税なら受けられたはずの還付を受けられず、結果的に損をしてしまうことがあります。

ですから、届出を出す前には、簡易課税と本則課税の両方でシミュレーションをして、どちらが有利かを比較しておくことが欠かせません。この試算を怠って届出だけ先に出してしまう会社を、これまで何社も見てきました。

経理の手間と税負担、両方を見て判断する

簡易課税の一番の魅力は、やはり事務負担の軽さです。仕入の消費税を一件ずつ集計する必要がなくなるので、経理担当者の作業時間はもちろん、記帳ミスによる修正申告のリスクも減らせます。

一方で、届出後2年間は変更できないという制約がある以上、目先の業績だけでなく、今後の設備投資計画や事業拡大の見通しまで含めて判断する必要があります。

基準期間の課税売上高が5,000万円前後で推移している会社や、今期・来期に大きな投資を控えている会社は特に、届出前の試算を丁寧に行っておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。