先日、年商4,800万円のITコンサル会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。

「消費税の計算が楽になると聞いて、去年から簡易課税にしたんですが、本当にお得なんでしょうか?」

実態を確認してみると、外注費や各種経費が売上の6割近くを占めていました。試算してみると、実は本則課税の方が年間50万円以上も有利な状況になっていたのです。

簡易課税は「楽な計算方法」であって「節税方法」ではない

消費税の申告には「本則課税」と「簡易課税」の2種類があります。

本則課税は、実際に支払った仕入や経費にかかる消費税を集計して差し引く方法です。一方の簡易課税は、売上をもとに業種別の「みなし仕入率」を使って消費税額を概算で計算する方法。帳簿管理が楽になるのは事実ですが、それが必ずしも「節税」につながるわけではありません。

問題は、このみなし仕入率が実態と乖離してしまうケースです。

年商5,000万円で年50万円の差が出る仕組み

サービス業のみなし仕入率は50%です。年商が5,000万円なら、その50%にあたる2,500万円を「みなしの仕入額」として消費税を計算します。

でも、実際の外注費や経費が売上の60%、つまり3,000万円だったとしたらどうなるか。

本則課税なら、3,000万円分の消費税(300万円)を仕入税額控除できます。でも簡易課税では2,500万円分(250万円)しか控除できません。その差額50万円が、丸ごと余計に払う消費税になります。年商5,000万円の会社で、経費率がたった10%ずれるだけで生まれる損失です。

ハマりやすい業種は「みなし50%」のサービス業

みなし仕入率は業種によって異なります。卸売業90%、小売業80%、製造業・建設業70%、飲食業60%、サービス業50%、不動産業40%という区分です。

卸売業の90%は、実際の仕入率も高くなりがちなので差異が小さく、簡易課税のメリットが出やすい業種です。一方、ITコンサル・士業・コーチングなど、外注費やソフトウェア費が高いサービス業は、実態の経費率が50%を超えやすい。損をするパターンにハマりがちなのが、まさにこの業種なのです。

ご自身の会社の直近1〜2期の経費率を一度確認してみてください。50%を超えているなら、要注意サインです。

2年縛りと設備投資の組み合わせが最も危ない

もう一つ、絶対に知っておいてほしいことがあります。

簡易課税を選択すると、最低2年間は変更できません。この「2年縛り」が意外と曲者です。

大型設備投資をする年に問題が発生します。機械や設備を購入した年は、本則課税なら消費税の還付を受けられることがあります。1,000万円の設備投資なら、最大100万円が戻ってくる計算です。ところが、簡易課税を選択中ではこの還付は受けられません。

節税のつもりで選んだ簡易課税が、設備投資のタイミングで100万円単位の損失につながるケースは、実際によくある話です。向こう2年間に大きな設備投資や物件取得の予定があるなら、今すぐ税理士に確認することを強くおすすめします。

判断前に整理すべき3つのポイント

では、どうやって判断すればいいか。実は難しいことはなく、次の3点を整理するだけで方向性は見えてきます。

  • 直近1〜2期の仕入・外注費・経費合計が売上の何%か
  • 向こう2年間に設備投資や大型購入の予定があるか
  • 複数の業種区分をまたいでいないか(複数区分が混在すると計算が複雑になる)

この3点を持って税理士に相談すれば、10〜15分で方向性が出ます。消費税の課税方式は期首までに届出が必要で、決算直前に気づいても手遅れになることがあります。

まだ試算すらしていないなら、今期の決算前に一度確認しておくのがおすすめです。年50万円の差は、相談料を大きく上回るはずです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。