先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「決算まであと3ヶ月なんですが、今期は予想外に利益が出てしまって……今からできる節税策はありませんか?」というものです。

こういう相談は、毎年秋になると増えます。でも正直なところ、決算直前に使える手はかなり限られています。そんなとき私が必ず最初に確認するのが、「経営セーフティ共済に加入しているかどうか」です。

年240万円を丸ごと損金にできる仕組み

経営セーフティ共済(正式名称:中小企業倒産防止共済)は、独立行政法人・中小企業基盤整備機構が運営する共済制度です。掛金は月々最大20万円、年間に直すと240万円が全額損金として計上できます。

実効税率30%の会社であれば、年間で約72万円の節税効果です。毎年継続すれば5年間で360万円以上の税負担を圧縮できる計算になります。

「要するに費用の前払いでしょ?」と思う方もいるかもしれません。でも違います。掛金は最大800万円まで積み立てられ、40ヶ月以上加入すれば解約時に全額が戻ってきます(返戻率100%以上)。損金算入しながら資産形成もできる、二重においしい制度です。

節税だけじゃない。最大8,000万円の緊急融資枠

経営セーフティ共済にはもうひとつの顔があります。取引先が突然倒産したとき、積み立てた掛金の最大10倍、上限8,000万円まで無担保・無保証人で融資を受けられる仕組みです。

銀行のように長い審査も、担保も、保証人も不要です。「うちは大丈夫」という会社ほど、万が一のときに準備ができていないものです。節税ついでに緊急時のセーフティネットを持てるなら、一石二鳥どころか一石三鳥です。

解約タイミングこそ、本当の設計ポイント

ここが最も大事なところです。じっくり読んでください。

解約時に受け取る「解約手当金」は、全額がその期の益金(収益)として計上されます。800万円積み立てて解約すると、そのまま800万円が利益に乗っかってくるわけです。

「積み立てるときに損金で節税して、解約したら丸ごと益金にされる。結局トントンじゃないか」と感じた方、そこが違います。鍵は解約する期を自分で選べることです。

たとえば、オーナー社長が退職する年に解約すれば、高額の退職金(損金)と解約手当金(益金)を同じ期にぶつけられます。退職金1億円、解約手当金800万円なら、差し引き9,200万円の損金超過。実質ほぼ無税で共済金を回収できます。

解約に向いているタイミングの例を挙げると:

  • 社長・役員の退職や引退の年
  • 大型設備投資や不動産購入で損金が膨らむ期
  • 赤字が見込まれる決算期

積み立て始めるときから「いつ、どんな損金と一緒に解約するか」まで設計しておくのが、賢い使い方です。

加入要件と注意点

加入できるのは、1年以上継続して事業を行っている中小企業です(業種ごとに資本金・従業員数の基準があります)。個人事業主も対象です。

注意点は主に2つあります。1つ目は、40ヶ月未満で解約すると元本割れする点です。短期で解約すると掛け捨てが発生するため、5年以上の長期運用が前提と考えてください。2つ目は、掛金を前納する場合の会計処理です。前納した分の処理を誤るケースが意外と多いので、顧問税理士と確認を取っておくと安心です。

まだ加入していないなら、今期中に動いてください

利益が年800万円を超えている法人には、加入しない理由がほとんどありません。今期の利益の見通しが立ってきた段階で、すぐに検討を始めてください。

すでに加入済みの方は、「積立残高がいくらで、いつ解約するつもりか」を一度整理してみてください。何となく加入したまま、何となく解約してしまうパターンが一番もったいないです。解約シナリオまで設計して、はじめて経営セーフティ共済は真価を発揮します。

顧問税理士にまだ提案されていないなら、ぜひ自分から話を持ちかけてみてください。知っているかどうかで、数百万円単位の差がつく制度です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。