先日、ある製造業の社長とランチをしていたとき、こんな話になりました。「うちはちゃんと税理士に頼んでいるから、経費漏れなんてないと思うんですよね」。その言葉が少し気になって、試しに聞いてみました。「社長のスマホ代、会社の経費にしていますか?」。数秒の沈黙の後、「……あ、そういえば個人払いのままにしてるかもしれない」という答えが返ってきました。
これは、よくあるケースです。税理士に依頼しているから安心、という感覚は理解できます。でも実際には、毎月すべての経費項目を漏れなく確認してくれている事務所は、思いのほか少ない。決算や申告の時期には細かく動いてくれるけれど、日常の経費計上については、社長や経理担当者の認識に任せているケースが大半です。
年間600万円の「見落とし」はこうして生まれる
経費の見落としが起きるのは、悪意があるわけでも、税理士が怠慢なわけでもありません。単純に、「これも経費になるの?」という知識が抜けているだけです。
見落とされやすい経費には、たとえば次のようなものがあります。
- 社長・役員のスマホ代(事業利用分)
- 仕事に関連する書籍・雑誌・セミナー費用
- 自宅兼事務所の光熱費・家賃の一部
- 車のガソリン代・高速代・駐車料金
- 社員・社長の健康診断費用
- サブスクリプションサービス(業務利用のクラウドツール等)
- 取引先との会食・接待交際費
- 慶弔費用や香典
- 自宅インターネット回線費用の一部
このリストを見て、「あ、これ個人払いにしてるかも」と思ったものはありませんか。実際に集計してみると、月に10万円単位で見落とされているケースは珍しくありません。月に10万円なら年間120万円、月に50万円なら年間600万円です。
税率30%なら、年間180万円の話
経費が増えれば課税所得が減ります。実効税率が30%の会社であれば、年間600万円の経費漏れは、単純計算で180万円の税負担の増加を意味します。
「年180万円」というと、ちょっとした設備投資や、社員一人分の採用費に相当します。それを毎年知らないまま払い続けているとすれば、もったいないとしか言いようがありません。
もちろん、すべての支出が無条件に経費になるわけではありません。大前提は「事業との関連性」です。プライベートと事業を兼用している場合は按分計算が必要ですし、計上根拠を説明できるようにしておくことも大切です。ただ、「事業に関係するかどうかわからないから計上しない」という消極的な姿勢が、経費の見落としを生んでいる最大の原因になっています。
「税理士に任せているから大丈夫」という誤解
税理士との関係で誤解されやすいのが、「顧問税理士がいれば、経費の漏れは自動的に防いでもらえる」という期待です。
実際には、税理士は毎月の記帳・試算表の確認・税務署対応などを担っています。でも、社長自身が把握していない支出を、税理士が外から発見することはできません。情報を持っているのは、常に社長側です。
「あの支出、経費にできましたか?」という確認を毎月積み重ねることが、見落としを防ぐ唯一の方法です。それをやらずに「税理士に任せている」と言っても、残念ながら穴は埋まりません。
今月からできる、たった一つの習慣
難しく考える必要はありません。まず一度、過去3ヶ月の個人のクレジットカード明細を開いてみてください。そこに業務に関係する支出が混じっていたら、それは経費計上できる可能性があります。
特に確認してほしいのは、スマホ代・プロバイダ料金・書籍・セミナー費用・交通費の5項目です。これらは事業関連性が認められやすく、かつ見落とされやすい。まずここから始めるだけで、年間の経費計上額は確実に変わります。
次のステップは、その内容を一覧にして税理士に見せることです。「これは経費になりますか?」と聞くだけで、専門家の判断をすぐにもらえます。難しい判断は税理士に任せて、素材を集めるのは社長の役割と割り切ってください。
経費の見落としは、一度仕組みを作れば防ぎやすくなります。月次で経費をチェックするフローを会社のルーティンに組み込む。それだけで、毎年払い続けていた余計な税負担が、大きく減る可能性があります。今期中に、ぜひ一度見直してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。