先日、ある社長からこんな相談を受けました。「うちも今からインボイス登録した方がいいんでしょうか」。

実はこの質問、答えは会社の業種や規模ではなく、ほとんど「誰と取引しているか」で決まります。今日はその判断基準を整理してみます。

インボイス登録は義務ではなく選択

意外と誤解されている方が多いのですが、インボイス登録は法律上の義務ではありません。事業者ごとに登録するかしないかを選べる制度です。

ただし「登録しなくていい」と聞いて安心するのはまだ早い話です。取引先の状況次第では、登録しないことが売上に直結するリスクになるからです。

取引先が課税事業者なら、登録が事実上の条件になる

相手先が課税事業者で、仕入税額控除を活用している場合は要注意です。

こちらが免税事業者のままだと、相手企業は仕入税額控除が受けられず、消費税分をまるまる負担することになります。結果として「インボイス登録していない取引先とは契約を継続しない」という判断をする企業が増えています。

特にBtoBで法人相手に継続的な取引をしている場合、たとえば建設業の下請け、製造業の部品供給、士業のアウトソース先といったポジションにいる事業者は、登録しないことで既存の取引先から契約を切られるリスクを抱えることになります。

売上規模が小さくても、主要な取引先が数社の課税事業者に集中しているなら、登録を前提に考えた方が現実的です。

消費者や免税事業者が主な相手なら、登録しない選択もあり得る

一方で、主な取引相手が一般消費者や免税事業者の場合は事情が変わります。

個人向けのサロン経営、飲食店、フリーランスのクリエイターで個人客がメインといったビジネスでは、相手側がそもそも仕入税額控除を必要としません。インボイスがあってもなくても、取引の継続性に影響しないケースが多いのです。

この場合、あえて登録して消費税の納税義務を新たに背負う必要はないかもしれません。

登録すると、それまで免税だった売上に納税義務が生じる

ここが一番見落とされやすいポイントです。

インボイス登録をすると、課税事業者になります。つまり、これまで免税事業者として消費税を納めていなかった売上に対しても、消費税の納税義務が発生します。年商1,000万円以下の小規模事業者にとっては、これが実質的な増税になります。

経過措置として簡易課税や2割特例といった負担軽減策も用意されていますが、いずれ本則課税に戻る前提で考えると、長期的な利益率への影響は無視できません。

登録するかどうかを決める前に、まずは自社の売上構成を洗い出してみることをおすすめします。取引先を「課税事業者・仕入税額控除を求めてくる相手」と「消費者・免税事業者」に分類し、前者の売上比率がどれくらいあるかを確認するだけで、判断はかなり明確になります。

もし取引先の大半が個人客や免税事業者なら、登録を急ぐ必要はありません。逆に主要取引先が課税事業者に偏っているなら、契約継続のために登録を検討する時期かもしれません。

まだ取引先の整理をしていないなら、決算のタイミングで一度、売上先ごとの課税区分を棚卸ししておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。