先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。

「決算まであと2週間なんですが、今月末に出荷予定の大型受注、来期に回せませんかね。今期はもう十分に利益が出ているので」

悪気があるわけではなく、単純に「税金をできるだけ抑えたい」という気持ちからの相談でした。ですが、この考え方には落とし穴があります。

売上はいつ計上するのか、実は選べる

売上をどのタイミングで帳簿につけるかには、いくつかの基準があります。商品を出荷した日で計上する出荷基準、相手先に届いて検収が完了した日で計上する検収基準、サービスであれば役務の提供が完了した日で計上する基準などです。

どれか一つに決めなければならないわけではなく、業種や取引の実態に応じて合理的な基準を選ぶことができます。ここまでは、多くの社長がなんとなく知っている話だと思います。

問題はその先です。基準を選べるからといって、決算のたびに都合よく使い分けていいわけではありません。

「今期だけ来期扱いにする」が危険な理由

税務調査で最もよく指摘されるパターンの一つが、いわゆる「期ずれ」です。実際には今期中に商品を引き渡し、サービスも完了しているのに、書類上だけ来期の売上として処理してしまうケースです。

例えば、3月中に出荷して先方も受け取っているにもかかわらず、請求書の日付だけ4月にずらす。あるいは、検収基準を採用していると言いながら、都合の悪い取引だけ検収書が届く前に計上を先送りする。こうした処理は、税務調査で取引の実態を確認されればすぐに矛盾が露見します。

否認されると、単に今期の売上に加算されて追徴課税が発生するだけでは済みません。過少申告加算税や延滞税も上乗せされるため、結果的に「先送りしたつもりが余計に税金を払う」ことになりがちです。

大事なのは基準を決めて毎期守ること

税務署が問題視するのは、基準そのものではなく「一貫性のなさ」です。出荷基準を採用している会社であれば、毎期その基準で売上を計上し続けることが大前提になります。

業種の実態に合わない基準を無理に選ぶのも避けたいところです。受注生産で検収に時間がかかる建設業やシステム開発であれば検収基準がなじみますし、店頭で商品を渡してすぐ完了する小売業なら出荷基準や引渡基準が自然です。

実務上のポイントは、契約書や検収書、納品書といった証憑をきちんと残しておくことです。基準に沿って処理していることを客観的に説明できる資料があれば、税務調査が入っても慌てずに対応できます。

決算前に確認しておきたいこと

期末が近づくと「今期の利益を圧縮したい」という発想が出てくるのは自然なことです。ですが、売上計上時期の操作は最もシンプルに見えて、実は最もリスクの高い節税策のひとつです。

本当に検討すべきなのは、計上時期をずらすことではなく、今使っている基準が自社の取引実態に本当に合っているか、そして毎期きちんと同じ基準で運用できているかという点です。

まだ社内で売上計上のルールが明文化されていないなら、今期の決算を機に一度整理しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。