決算まであと1ヶ月というタイミングで、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「今期は利益が出すぎている。今のうちに広告を打って節税したいんですが、本当に大丈夫でしょうか」。

答えから言うと、これは十分に正当な節税手段です。ただし、やり方を間違えると税務調査でそのまま否認される、意外と落とし穴の多いテーマでもあります。

利益が出た年に広告を前倒しする発想

広告費は原則として、支出した事業年度の損金にできます。だからこそ、利益が大きく出そうな決算期に合わせて広告出稿を前倒しし、当期の利益を圧縮するという判断は、税務署OBの立場から見ても筋の通った戦略です。

売上が伸びて法人税の負担が重くなりそうなときに、もともと来期以降に予定していた広告投資を今期中に前倒しする。これだけであれば、租税回避でもなんでもなく、単なる経営判断としての節税です。

分かれ目は「当期中に役務提供が完了しているか」

問題はここからです。広告費が当期の損金として認められるかどうかは、広告という役務の提供が当期中に完了しているかどうかで決まります。

Web広告の掲載や動画の放映が、決算日までに実際に行われていれば、その費用は当期の損金として問題なく計上できます。請求書の日付や支払日ではなく、「実際にサービスが提供されたのはいつか」が基準になる点がポイントです。

逆に言えば、決算間際に広告代理店へ大きな金額を振り込んだとしても、それが来期に掲載予定の広告費であれば話は別です。この場合は当期の費用ではなく、来期に帰属すべき「前払費用」として資産計上しなければなりません。

よくある否認パターン

実務でありがちなのが、決算対策として広告費を一括で支払い、掲載スケジュールの大半が翌期にずれ込んでいるケースです。

本人としては「広告費を払ったから損金にできる」というつもりでも、税務調査官は掲載実績や広告代理店との契約書、稼働報告書などを見て、どこまでが当期中に完了したサービスなのかを厳密にチェックします。

例えば、12月決算の会社が11月に半年分の広告出稿契約を結び、費用の全額を当期の損金として計上したとします。実際に掲載されたのが12月分だけで、残り5ヶ月分が翌年1月以降だった場合、その5ヶ月分は前払費用として否認され、追徴課税の対象になり得ます。

短期前払費用の特例を使えば1年以内の前払い分をまとめて損金にできる場合もありますが、これは地代家賃や保険料のような「等質・等量のサービスが継続的に提供される」費用が対象で、広告費のように内容が都度変わるものには基本的に使えません。

決算前に広告費で節税するなら

決算前の広告出稿で節税を狙うなら、単に予算を前倒しで消化するのではなく、決算日までに掲載・放映が完了するスケジュールで組むことが大前提になります。

広告代理店に依頼する際は、いつからいつまで掲載されるのか、稼働実績をどう証跡として残してもらえるのかを事前に確認しておくと、後々の説明がぐっと楽になります。

まだ広告出稿のスケジュールを来期にまたいで組んでいるなら、決算日を基準にもう一度見直しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。