先日、ある後継者の方からこんな相談を受けました。
「相続税の納付期限が3ヶ月後に迫っているのに、手元に現金がほとんどありません」。財産の大半が先代から引き継いだ自社株で、預金はごくわずか。よくある話に聞こえるかもしれませんが、本人にとっては夜も眠れない状況です。
実は自社株しか財産がない後継者にとって、こうした事態は珍しくありません。非上場企業の株は売ろうにも買い手がつかず、換金性がほぼゼロだからです。
会社に株を買い取ってもらうという発想
こういうとき使えるのが「金庫株」という仕組みです。相続した自社株を、発行会社自身に買い取ってもらう方法です。
会社側から見れば、自己株式を取得して金庫にしまっておく(=金庫株)だけのこと。後継者から見れば、換金できない株を会社の資金で現金化できることになります。相続税の納付期限は相続開始から10ヶ月以内なので、この現金化のスピード感は非常に重要です。
ただし、ここで多くの人がつまずくポイントがあります。
「配当扱い」で税金が跳ね上がる落とし穴
会社に株を買い取ってもらうと、原則としてその対価は「みなし配当」として扱われます。配当所得は総合課税で、所得税・住民税をあわせると税率が最大55%近くにまで達することもあります。
せっかく現金を作れても、税金でごっそり持っていかれては本末転倒です。相続財産の大半を占めていた自社株が、今度は重税の対象に変わってしまうわけです。
3年10ヶ月以内なら約20%で済む特例がある
ここで押さえておきたいのが、相続税の申告期限の特例です。相続開始から3年10ヶ月以内に発行会社へ株式を譲渡すれば、みなし配当課税を回避し、譲渡所得として約20%の税率で済ませることができます。
55%と20%では手取りが大きく変わります。仮に5,000万円分の株式を金庫株として買い取ってもらう場合、みなし配当扱いだと税負担は2,000万円を超えることもありますが、この特例を使えば1,000万円程度に収まる計算です。差額は1,000万円以上にもなり得ます。
この特例は名前の通り「期限内に手続きを終えること」が条件です。会社側の資金繰り、株価の算定、税務署への届出など準備には相応の時間がかかります。相続税の納付期限(10ヶ月)はすぐに来てしまいますが、特例の期限(3年10ヶ月)まで余裕があるからと後回しにすると、会社の資金準備が間に合わなくなるケースも見てきました。
会社側の準備も忘れずに
金庫株を実行するには、会社に買い取るだけの現金や剰余金が必要です。財源規制といって、会社法上も分配可能額の範囲でしか自己株式を取得できません。
業績が厳しい会社では、そもそも金庫株という選択肢自体が使えないこともあります。相続が発生してから慌てて検討するのではなく、後継者が決まった段階で「もしもの時にどう納税資金を確保するか」を先代のうちに話し合っておくのが理想です。
自社株しか財産がなく納税資金に不安がある方は、金庫株という選択肢があることをぜひ覚えておいてください。そして検討するなら、期限が来る前の早めの相談をおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。