先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「去年より利益は出ているのに、なぜか税務署から連絡が来た」というのです。
実は、税務調査は「調査官が会社に来た日」から始まっているわけではありません。調査先を選ぶ段階で、すでに決算書は見られています。しかもそれは今期の1年分だけではなく、3期分を並べて見られているのです。
調査官は「今期の数字」だけを見ていない
国税OBの方に話を聞くと、調査先を選定する際は単年の決算書だけを見ることはほとんどないそうです。3期分を横に並べて、どの科目がどう動いたかを比較する。これが最初のスクリーニングだといいます。
単年の数字がどれだけ良く見えても、それだけでは意味がありません。前期・前々期と比べてどう変化したか。ここに調査官は着目します。
売上が順調に伸びている会社ほど、実は要注意です。伸びていること自体は良いことですが、その伸びに対して他の科目がどう動いたかが、次のチェックポイントになるからです。
売上は伸びているのに利益率が落ちる、その理由を説明できますか
典型的に当たりをつけられやすいのが、売上は伸びているのに粗利率だけが下がっているケースです。
仕入コストの上昇や取引条件の変化など、理由がはっきりしていれば何も問題はありません。ただ、その理由を資料として説明できる状態になっているかどうかは別の話です。
粗利率が数ポイット動いただけでも、税務署から見れば「何かが起きた」というサインに映ります。値上げ交渉が難航した、大口案件で採算度外視の受注をした、原材料の仕入先を変えた。こうした背景を、決算書の数字だけでは調査官に伝えることはできません。
口頭で説明できるつもりでいても、調査官が最初に見るのは資料です。資料がなければ、まず疑いの目で見られるところから調査が始まってしまいます。
外注費が急に増えた年、あなたの会社はどうだったか
もう一つ当たりをつけられやすいのが、外注費だけが突出して増えているケースです。
外注費は人件費と違って給与明細のような裏付け資料が薄く、架空計上や個人への外注を装った給与隠しなど、過去に問題になりやすかった科目でもあります。だからこそ調査官の目も自然と厳しくなります。
事業拡大に伴う正当な外注であれば何の問題もありません。ただ、その外注先との契約書、発注の経緯、成果物の内容といった資料が整理されていないと、説明の場で慌てることになります。
外注費だけでなく、交際費や修繕費など、前期と比べて大きく動いた科目があれば、同じように「なぜ動いたか」を一言で説明できるようにしておく。これが調査対策の基本です。
決算のタイミングで「理由の資料」を残しておく
結局のところ、税務調査で問われるのは数字そのものよりも、数字の変化に説明がつくかどうかです。
大きく動いた科目があれば、その理由を裏付ける資料を決算時点で残しておく。これに尽きます。調査が入ってから慌てて記憶をたどるのと、決算のタイミングで資料を整理してあるのとでは、調査官に与える印象がまったく違います。
具体的には、大口の契約書や見積書、取引条件が変わった際のメールのやり取り、値上げ・値下げの経緯をまとめたメモ程度でも構いません。「なぜこの科目がこう動いたか」を後から追える状態にしておくことが重要です。
決算書は過去の結果を記録するものですが、調査対策という意味では、未来の自分への説明資料でもあります。
まだ決算時に科目の変化理由を資料化する習慣がないなら、今期の決算からでも整備しておくのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。