先日、決算を1ヶ月後に控えた社長からこんな相談を受けました。「今期、接待が多くてね。交際費、どこまで経費にできるんだっけ」。

聞けば、その会社は毎年なんとなく経理担当者に任せきりで、交際費の処理を見直したことがないとのことでした。実はこの「なんとなく」が、年間数十万円の払いすぎにつながっているケースをよく見かけます。

800万円という数字の正体

資本金1億円以下の中小法人であれば、交際費は年間800万円まで全額を損金にできます。これは「定額控除限度額」と呼ばれる制度です。

ただし選択肢はもう一つあります。接待飲食費であれば、その50%を損金算入する方法です。どちらか有利な方を選べるのですが、この選択を毎期きちんと比較している会社は、意外と多くありません。

交際費が年間500万円程度で、そのほとんどが接待飲食費という会社なら、800万円の定額枠を使い切っていない状態です。全額損金にできる枠が余っているのに、わざわざ50%だけ計上してしまっているケースもあります。逆に飲食費以外の交際費(贈答品や慶弔費など)が多い会社は、定額枠を使い切ってしまい、はみ出た分は完全に損金不算入になります。この場合は接待飲食費だけ50%ルールで別処理できないか、内訳を見直す価値があります。

決算の数ヶ月前でいいので、一度「今期の交際費の内訳」と「どちらの方式が有利か」を顧問税理士と突き合わせておくと、無駄なく枠を使い切れます。

会議費との線引きで揉める理由

税務調査で最もよく指摘されるのが、会議費と交際費の区分です。

打ち合わせのついでに取引先とランチをしただけのつもりが、調査官には「実質的な接待」と見なされ、交際費に振り替えられてしまう。こうなると、社内で会議費として処理していた金額が急に否認対象になり、追徴課税につながります。

判断のポイントは、単純な金額の大小ではなく「事業の遂行上必要な打ち合わせだったかどうか」です。議事録や次のアクションが残っている打ち合わせであれば会議費として説明しやすくなりますが、記録が何もなければ、調査官に反論する材料がありません。

1万円という基準を守っているつもりが、記録漏れでアウトになる

2024年4月以降、1人当たり1万円以下の飲食費であれば、交際費から除外して全額損金にできるルールに引き上げられました。これ自体は社長にとって朗報です。

ところが、この特例を使うには条件があります。飲食の年月日、参加した得意先や社員の氏名、人数、金額、店の名称と所在地を書類として保存しておく必要があるのです。

領収書だけ経理に渡して「あとはよろしく」という運用をしている会社は要注意です。金額が1人1万円以下であっても、参加者や日付の記録がなければ、税務調査の場でこの特例を主張できません。結果として、せっかく少額のはずの飲食費が丸ごと交際費に戻され、800万円の枠を余計に消費してしまいます。

領収書の裏や、経費精算システムの備考欄に「誰と、何人で、何のために」を一言添えるだけで、この特例はきちんと使えるようになります。手間としては数十秒の話です。

交際費の800万円という枠自体は、思っているより大きく、正しく使えば法人にとって有利な制度です。ただしそれは「定額控除と50%ルールをちゃんと比較しているか」「会議費との線引きを説明できるか」「1人1万円以下の記録を残しているか」、この3つが揃って初めて活きてきます。まずは今期の交際費の内訳を一度、経理担当者と一緒に確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。