先日、創業15年になる製造業の社長からこんな相談を受けました。「顧問の保険会社に勧められるまま、退職金の原資はずっと法人保険に入れてきました。これで本当に大丈夫でしょうか」。

通帳を見せてもらうと、退職金準備のほぼ全額が一社の保険商品に集中していました。保障もついているし、担当者も熱心に説明してくれる。悪い話には聞こえません。ですが、これは典型的な「一点集中型」のリスクです。

保険だけに頼ると何が危ないのか

法人保険は退職金準備の王道として長年語られてきました。役員退職金の原資を積み立てながら、万一の保障もつく。営業トークとしては筋が通っています。

ただし見落とされがちなのが、保険の損金算入ルールがこの十数年で何度も改正されてきたという事実です。かつて全額損金にできた商品が、通達改正によって一部損金、あるいは資産計上に変わる。そのたびに、退職金準備の設計そのものを見直さざるを得なくなった会社は少なくありません。

つまり保険は「今のルールでは有利」であって、「未来永劫有利」とは限らないのです。制度変更のたびに一社依存の準備方法が揺らぐとしたら、それは分散不足のサインだと考えたほうがいいでしょう。

小規模企業共済という選択肢

ここで検討したいのが小規模企業共済です。中小企業の経営者や役員が加入できる制度で、掛金は月1,000円から7万円まで自由に設定でき、その全額が所得控除の対象になります。

年間で見ると最大84万円が課税所得から差し引かれる計算です。保険のように保障はつきませんが、その分シンプルで、税制上の扱いが安定しているのが強みです。廃業や役員退任のタイミングで共済金として受け取れるため、退職金の原資として設計しやすい制度でもあります。

もちろん万能ではありません。掛金の払込期間が短いと元本割れするリスクがありますし、加入条件(従業員数など)を満たす必要もあります。あくまで「保険の代わり」ではなく「保険と組み合わせる選択肢」として捉えるのが現実的です。

分散こそが退職金準備の鉄則

結論から言うと、退職金準備は共済・保険・社内留保のどれか一つに賭けるのではなく、複数の器に分けて積み立てるのが鉄則です。

理由はシンプルで、税制も金融商品も将来どう変わるか誰にも読み切れないからです。保険の損金ルールが変わっても共済は影響を受けませんし、共済の限度額を超える部分は保険や社内留保でカバーできます。一つの制度が不利になっても、他の器が緩衝材になってくれる。これが分散の本質的な効果です。

実際、相談に来られた社長にも「今の保険契約はそのまま維持しつつ、小規模企業共済を月3万円から並行して始める」形をご提案しました。保険を全部解約する必要はなく、比率を調整するだけで十分です。

保険営業の話を鵜呑みにしない

保険営業の担当者が悪意を持って勧めているわけではありません。ただ、彼らの評価軸は保険契約の獲得であって、あなたの退職金準備全体の最適化ではないという点は覚えておく必要があります。

「保障もついて一石二鳥」という言葉に納得する前に、一度立ち止まって、自社の退職金準備がどの制度にどれだけ偏っているかを棚卸ししてみてください。共済・保険・社内留保のバランスを可視化するだけで、見えてくるリスクがあるはずです。

まだ小規模企業共済を検討したことがないなら、今期の資金繰りを見ながら、まずは少額からでも並行加入を検討してみるのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。