先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。長年の夢だった外車のスポーツカーを、思い切って社用車として購入したところ、税務調査でこう指摘されたそうです。「これは社長個人の趣味でしょう」と。
結論から言うと、高級車だから経費として認められない、という単純な話ではありません。争点になるのは車種でも価格でもなく、その車を実際にどれだけ事業のために使っているか、という「実態」です。
車種の高級感そのものは否認理由にならない
税務署の調査官も、法律上「高級車はNG」と言えるわけではありません。実際、外車のスポーツカーを社用車にしている会社は少なくありませんし、それ自体は違法でも何でもないのです。
ただし現実には、こうした車は調査官の目に留まりやすいというのも事実です。プライベートで乗り回している疑いを持たれやすく、結果として「本当に事業で使っているのか」を厳しく問われることになります。
つまり最初のハードルは「車種」ではなく「説明できる裏付けがあるかどうか」なのです。
争点は「事業使用の実態」
この社長のケースで調査官が本当に見ていたのは、その車が取引先訪問や現場への移動といった業務でどれだけ使われていたか、という点でした。
減価償却費やガソリン代、保険料などを全額経費計上していたにもかかわらず、それを裏付ける記録が何もなかった。これでは「社長が個人的に楽しむために会社のお金で買った車」と見られても、反論のしようがありません。
車を経費で持つこと自体は問題ではなく、経費として計上した分に見合う事業実態を示せるかどうかが分かれ目になります。
運行記録が社用車を守る
では、どうすれば良かったのか。答えはシンプルで、運行記録をつけておくことです。
具体的には、次のような項目を記録しておきます。
- 利用した日付
- 行き先
- 用件(誰と会ったか、何のための移動か)
- 走行距離
手間に感じるかもしれませんが、スマートフォンのメモアプリやExcelで十分です。大切なのは「後から振り返って事業使用だと説明できる状態」を継続的に作っておくことです。
調査は数年分をまとめて見られることが多く、記憶だけで「あの日は取引先に行っていました」と説明しても、裏付けがなければ調査官を納得させるのは難しいのが実情です。
プライベート利用があるなら按分する
もう一つ大事なのが按分の考え方です。休日に家族で使うこともある、通勤にも使っている、というケースは珍しくありません。
事業使用とプライベート使用が混在している場合、100%を経費にするのではなく、実態に応じた割合で按分して計上するのが本来の姿です。たとえば運行記録から事業使用が7割程度だと分かれば、車両関連費用のうち7割を経費、残り3割を役員への現物給与や個人負担として整理する、といった形です。
按分せずに全額経費にしてしまうと、それ自体が「実態を見ていない処理」だと判断される材料になってしまいます。多少手間でも、実態に沿った按分をしておくほうが、結果的に調査での説明が格段に楽になります。
記録は「守るための備え」
高級車に限らず、法人名義の資産をプライベートでも使う場面がある経営者は多いはずです。ゴルフ会員権や別荘、社宅なども同じ構造の問題を抱えています。
共通しているのは、経費計上の可否は「モノの種類」ではなく「使い方の実態と、それを説明できる記録があるか」で決まるという点です。記録さえ残っていれば、多少グレーに見える支出でも堂々と説明できますし、逆に記録がなければ、実態が事業使用中心であっても否認されるリスクを抱え続けることになります。
もし社用車を持っているのに運行記録をつけていないなら、今日からでも構いません。まずは直近1か月分だけでも、日付・行き先・用件を書き出す習慣を始めてみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。