先日、知り合いの会計士からこんな話を聞きました。決算後の春先に、都内の不動産会社の社長が突然の税務調査通知を受けた——そのきっかけのひとつが、前期に購入した1,200万円のベンツだったというのです。

「社用車を経費に入れるのは当たり前でしょう?」と思う社長も多いはずです。確かに業務に使う車は経費になります。でも、ある金額を超えた途端に、税務署の見る目が一気に変わるのをご存知でしょうか。

1,000万円という「見えない線引き」

税務調査の実務の世界では、1,000万円超の社用車は「高額資産」として税務署の重点チェック項目になると言われています。もちろん法律に「1,000万円を超えたら調査します」と明記されているわけではありません。ただ、申告書から車の取得価額はすぐに拾えますし、高額な資産は「本当に業務で使っているのか」という疑問を自然と呼び起こします。

購入した年度は特に注意が必要です。高額車両を取得した期に経費が膨らむのは当然ですが、そこで一気に税務調査リスクが上がると、現場の税理士たちの間でもよく話題になります。

税務署が実際に何を見ているか

調査官が確認するのは、シンプルに「その車、本当に仕事で使っていますか?」という一点です。

具体的にどんな実態がバレるのかというと——自宅の駐車場にほぼ置きっぱなし、土日・祝日にも走行履歴がある(家族のお出かけ利用)、出張先と走行距離が合わない、社長の配偶者や子どもが使っている形跡がある——こういった実態を税務署につかまれると、経費として計上していた金額が丸ごと否認される可能性があります。

1,200万円の車なら、法定耐用年数(普通乗用車は6年)に応じて毎年200万円の減価償却費が経費になっているはずです。それが数年分まとめて否認されると、追加課税だけで数百万円に達することも珍しくありません。

税務調査は「過去3年分」を調べるのが基本です。場合によっては5年、重加算税の対象になれば7年分まで遡ります。1台の車の経費否認が、思わぬ大ダメージになることはよくある話です。

対策は地味だけど、これだけで全然違う

では、どうすれば経費の正当性を守れるのか。実は答えはシンプルです。走行日誌をきちんとつける、それだけです。

走行日誌に必要な情報は次の3点です。

  • 日付:いつ使ったか
  • 行き先:どこへ行ったか
  • 目的:何のために行ったか

「○月○日、〇〇商事、営業訪問」「○月○日、顧問税理士事務所、月次相談」——こういう記録が積み上がっていれば、調査官に「業務使用の証拠を見せてください」と言われた瞬間に、迷わず提示できます。

逆に、走行日誌がなければ「業務で使っていた」という主張は口頭だけになります。証拠がない以上、税務署側の判断が優先されてしまうのが現実です。面倒に感じるかもしれませんが、スマホのアプリで走行ログを自動記録できるものもあるので、今すぐ導入する価値はあります。

プライベート利用がある場合はどうする?

現実には「100%業務専用」という車は少ないかもしれません。休日に少し乗ることもある、たまに家族が使うこともある——そういう場合は、業務使用割合に応じた按分計算が必要です。

按分の方法や割合は、会社の実態によって異なります。走行距離ベースで計算するのが一般的ですが、詳細は担当の税理士に確認しておくのがベストです。「うちのケースだとどう処理すべきか」を事前に相談しておくと、調査対応の際に大きな安心感になります。


1,000万円超の社用車を持っている、あるいはこれから購入を検討しているなら、走行日誌の仕組みを今すぐ整えておくことをおすすめします。記録をつけるコスト(1日数分)と、否認されたときのリスク(数百万円の追加課税)を比べれば、答えは明らかです。

「面倒だから後で」が一番危ない。走行日誌は、車を買った日から始めるのが鉄則です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。