先日、飲食チェーンを経営する社長から、こんな連絡が入りました。「税務調査で社用車の経費が全額ダメだと言われました。どうすれば良かったですか?」

社用車の維持費は、会社の規模によっては年間100万円を超えることも珍しくありません。この金額を全額経費に落とせるかどうか——社長にとっては小さくない問題です。ただ、「社用車だから全額経費」は思い込みです。税務署の判断は、思いのほか厳しいところがあります。

経費にできるのは「業務に使った分だけ」

まず結論から言うと、社用車の維持費は業務に使った割合だけが経費として認められます。これを「按分(あんぶん)」と呼びます。

プライベートで使った分まで会社の経費にするのは、税法上認められていません。では「100%業務利用なので全額経費にします」と申告した場合、税務署はどう見るでしょうか。

税務署が「按分の根拠」を確認する理由

税務調査が入ったとき、調査官がまず確認するのは「この按分割合の根拠は何ですか?」という一点です。

「感覚的に業務8割くらいです」は根拠になりません。「従業員が業務に使っています」も、それだけでは不十分です。税務署が求めるのは、客観的に確認できる記録です。

具体的には、いつ・どこへ・何の目的で車を使ったかが分かる走行記録です。ガソリン代の領収書や商談先の日程記録も補足として有効ですが、日付・目的地・走行距離が記録された「走行日報」があることが理想です。この記録がないと、調査官は「業務で使った証拠がない」と判断します。

全額否認になりやすい3つのパターン

実際に税務調査で経費が否認されるケースには、共通したパターンがあります。

**ひとつ目は「走行記録がない」こと。**これが最も多いです。「ずっと前から経費にしてきた」という会社でも、日報がなければ業務利用の証明ができません。

**ふたつ目は「家族も使っている」こと。**社長の自宅に置いてあり、奥さんやお子さんも普段使いしているケースです。この状況で「100%業務利用」と言い張っても、説得力は出ません。

**みっつ目は「通勤専用になっている」こと。**会社への行き帰りにしか使っていない車を「社用車」と呼んでいるケースです。通勤は業務利用に含まれないため、この使い方では経費計上が難しくなります。

この3つが重なると「業務利用の実態がない」と判断され、全額否認という最悪の結果になることがあります。

正しく按分すると節税効果はいくらになるか

仮に社用車の年間維持費が120万円だとします。ガソリン代・保険料・車検・駐車場代などを合計すると、これくらいになる会社は多いですよね。

走行記録をもとに業務70%・プライベート30%と按分した場合、経費にできる金額は84万円です。実効税率が30%の会社であれば、節税額は約25万円になります。

「根拠のない100%申告」と「記録に基づいた70%申告」を比べると、後者の方が節税額は低く見えます。しかし税務調査で否認された場合、過去数年分を遡って追徴課税される可能性があります。そのリスクを考えれば、記録をつけて70%で申告する方が、結果として有利になることがほとんどです。

走行日報のつけ方、実はシンプル

「走行日報なんて面倒そう」と思う社長も多いですが、難しくありません。ExcelかGoogleスプレッドシートで、日付・出発地・目的地・訪問目的・走行距離を記録するだけです。

週に一度まとめて振り返る形でも、記録がないよりは格段に有利になります。最近はスマートフォンのGPSと連携して自動記録してくれる走行管理アプリもあるので、社用車が複数台ある会社では導入を検討する価値があります。

今期中に整備しておきたいこと

社用車の経費処理に不安がある方は、まず3点を確認してみてください。走行記録が残っているか、家族の利用状況を整理できているか、按分割合の根拠を説明できるか、です。

「記録がない期間が続いている」という場合は、今期分だけでも走行日報をつけ始めることをおすすめします。過去は取り戻せませんが、これからの期間は守ることができます。

社用車は正しく使えば節税ツールにもなります。記録一枚が、数十万円の追徴課税を防ぐことになるかもしれません。走行日報の整備、今期中に始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。