先日、資金繰りに悩む社長からこんな相談を受けました。「来月の支払いが厳しくて、法人保険を解約して現金化しようと思うんです」。
話を聞くと、その保険は退職金準備のために長年かけてきたもので、解約すればせっかく積み上げた保障も戻ってきません。もったいない話です。実はこういう場面で、解約以外にもう一つ選択肢があることを知らない社長は少なくありません。
契約者貸付という仕組み
法人・個人を問わず、保険には「契約者貸付」という制度があります。解約返戻金の一定範囲内(多くの場合7〜9割程度)で、保険会社からお金を借りられる仕組みです。
ポイントは審査がほぼ不要ということ。銀行融資のように事業計画や決算内容を細かく見られることはなく、契約者本人の意思だけで、早ければ数日以内に資金化できます。保障もそのまま残るので、退職金準備や事業保障といった保険本来の目的を崩さずに済みます。
決算書への表れ方も、銀行からの借入とは少し違います。契約者貸付は保険会社との内部的な貸し借りという性格が強く、一般的な金融機関からの借入と比べて対外的な印象への影響は限定的だと言われています。ただし会計処理としては負債計上が必要になるため、金額や表示については顧問税理士に必ず確認してください。
便利さの裏にある注意点
ここまで聞くと「じゃあ資金が必要になったら契約者貸付を使えばいい」と思うかもしれません。ただし、いくつか押さえておきたい注意点があります。
まず、契約者貸付にも利息が発生します。保険会社や商品によって利率は異なりますが、無利息ではありません。借りている期間が長引くほど、じわじわとコストがかさんでいきます。
また、借入残高が解約返戻金の水準を超えてしまうと、保険契約そのものが失効するリスクがあります。借りて終わりではなく、いつまでにいくら返すのかという計画がセットで必要です。
そしてもう一つ大事なのは、これはあくまで「つなぎ資金」であるという位置づけです。運転資金の恒常的な不足を契約者貸付でまかない続けるのは、根本的な解決になりません。売上や資金繰り体質そのものの改善と合わせて考えるべき話です。
解約は最後の手段に
資金繰りが厳しくなると、つい「保険を解約すれば現金が入る」という発想に飛びつきがちです。しかし解約すると、それまで積み上げてきた保障も、将来の退職金準備の計画も、すべて白紙に戻ってしまいます。
一度解約した保険を同じ条件で再加入するのは、年齢や健康状態によってはほぼ不可能です。目先の資金繰りのために、長期的な資産形成の計画を手放すのは、あまりにも代償が大きい選択だと言えるでしょう。
資金が必要になったときは、まず契約者貸付で乗り切れないかを検討する。それでも足りない、あるいは長期化しそうだという場合に初めて、解約や他の資金調達手段を考える。この順番を意識するだけで、選択の幅はぐっと広がります。
もし今、資金繰りで保険の解約を検討しているなら、まずは保険証券を確認して契約者貸付の利用可能額を調べてみてください。それだけで、選べる道が一つ増えるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。