先日、ある後継者の方からこんな相談を受けました。
「父が、兄弟平等にと考えて、自社株を私と弟に50対50で残すつもりでいるんです」。仲の良いご兄弟で、揉め事とは無縁に見えるご家族でした。それでも私は、この話を聞いた瞬間に少し身構えてしまいました。
一見、公平で優しい配分に思えます。でも会社経営の観点から見ると、これは最も危険な株式配分のひとつです。
「平等」のつもりが「拒否権の押し付け合い」になる
株式会社の重要な意思決定は、株主総会の決議で決まります。役員の選任・解任、定款の変更、大きな投資判断。これらはすべて議決権の多数によって決まる仕組みです。
株を50対50で持つということは、兄と弟のどちらも単独では過半数を取れないということです。つまり、意見が一致している間は何も問題は起きません。しかし一度でも意見が割れると、決議は成立しなくなります。
役員選任すら決められない。配当方針すら決められない。極端な場合、代表取締役の選び直しすらできず、経営判断そのものが止まってしまいます。これは「平等」ではなく、互いに拒否権を持ち合っている状態というのが正確な表現です。
なぜ兄弟仲が良くても危険なのか
「うちの兄弟は仲が良いから大丈夫」と思われるかもしれません。実際、相談に来られる方の多くもそう仰います。
ただ、経営に対する温度差は、必ずしも仲の良し悪しとは関係なく生まれます。片方が会社に人生を懸けて働き、もう片方は別の仕事を持ちながら株主として関わる。こうしたケースでは、設備投資への考え方も、役員報酬の水準も、事業承継の次の一手についても、自然とズレが生じてきます。
そして厄介なのは、そのズレが表面化するのが決まって「先代が亡くなった後」だという点です。先代という調整役がいなくなった瞬間に、50対50の均衡が崩れ、経営の意思決定だけが宙に浮いてしまうのです。
財産の平等と議決権の集中は両立できる
ここで大切な発想の転換があります。「平等に分ける」対象を、株式そのものではなく「財産全体」に広げて考えることです。
具体的には、実際に会社を経営していく側の後継者に議決権を集中させ、経営に関わらない側には株式以外の財産や、配当という形で報いる設計です。たとえば自宅や金融資産を非後継者に多めに配分する、あるいは種類株式を使って議決権のない配当優先株を持たせるといった方法があります。
こうすれば、経営の意思決定は後継者が単独で行える体制を保ちながら、財産としての取り分は兄弟間でバランスを取ることができます。「株を半分ずつ」という発想を一度手放すことが、結果的に家族の関係を守ることにもつながります。
実行するなら先代が元気なうちに
この手の配分見直しは、相続が発生してからでは手遅れです。遺産分割協議の場で「議決権を集中させましょう」と急に言い出しても、感情的な対立を招くだけになりかねません。
先代がまだ経営に関わっているうちに、生前贈与や種類株式の設計、あるいは信託の活用などを通じて、時間をかけて議決権の集中を進めておくことが現実的な打ち手になります。株価が低いタイミングを見計らって後継者へ計画的に贈与していくことで、税負担を抑えながら議決権を移していくことも可能です。
兄弟仲の良さは、会社の議決権配分とは別の問題です。「平等に分ける」という言葉に安心してしまう前に、その配分で本当に経営が回り続けるかを一度確認しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。