先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「自分だけ医療保険を手厚くしたいんだけど、会社の経費で落とせますよね」。

保険営業からも似たような提案を受けていたそうです。社長だけを対象にした手厚い医療保険を法人契約で、というのは保険業界の鉄板トークのひとつです。

でもここには、見落とされがちな落とし穴があります。

結論から言うと、社長や特定の役員だけを対象にした保険料は、福利厚生費ではなく、その役員への給与とみなされる可能性が高いのです。

なぜ「給与」扱いになるのか

理由はシンプルです。福利厚生費として認められるのは、全役員・全従業員が公平に恩恵を受けられる制度に限られます。

これを税務の世界では「普遍的加入」と呼びます。社長だけ、あるいは役員だけを対象にした保険は、この普遍性を満たしません。

つまり、社長個人が得な保険に入るために会社がお金を出しているのと同じ扱いになってしまうということです。契約者が法人であっても、この判断は変わりません。

給与課税になるとどうなるか

保険料が給与とみなされると、負担は一気に増えます。

  • 源泉所得税の対象になり、会社側は源泉徴収漏れを指摘される
  • 社長個人の所得税・住民税が増える
  • 場合によっては社会保険料の算定基礎にも影響する

仮に年間50万円の医療保険を社長だけにかけていたとすると、その50万円がまるごと給与認定され、追徴課税と延滞税が発生した、というケースも実際にあります。

税務調査では、法人契約の保険がまさにこの論点でよく指摘されます。契約者が法人でも、被保険者や受益の対象が役員一人に偏っていれば、調査官はまずそこを見ます。過去にさかのぼって指摘されると、金額はそれなりに膨らみます。

福利厚生費として認めてもらうには

では、社長の保険を経費にする方法がないかというと、そうではありません。

ポイントはひとつ、全役員・全従業員を対象にすることです。

金額に差をつけること自体は、役職や勤続年数に応じた合理的な基準があれば問題ないとされています。役員は手厚く、一般社員は標準的な保障、という設計も可能です。

ただし「誰を対象にするか」で線引きをしてしまうと、その時点で福利厚生費の要件から外れてしまいます。あくまで対象範囲の話であって、金額の話ではないという点を押さえておいてください。

保険営業から「社長だけ手厚く」という提案を受けたら、まず「では他の役員・従業員にも同じ制度を用意できますか」と聞き返してみてください。それだけで、税務リスクの有無がかなり見えてきます。

すでに社長だけを対象にした保険契約があるなら、決算前に見直しておくのがおすすめです。全員加入の制度に組み替えられるか、保険会社や顧問税理士に一度確認してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。