先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。保険代理店から「福利厚生として保険に入れば、全額損金にできますよ」と提案され、役員3名分の保険契約にサインしかけていたそうです。
結論から言うと、これは非常に危険な話です。福利厚生費として損金算入が認められるのは、あくまで「全従業員を対象にした普遍的な制度」である場合に限られます。役員や一部の幹部だけが加入する保険は、税務上「福利厚生」とは認められません。
なぜ「全員加入」が条件なのか
福利厚生費という科目は、そもそも「会社に属する人全員が等しく受けられる待遇」を前提にした制度です。パートも含めた全従業員が対象になっていて初めて、会社の経費として認められます。
逆に言えば、役員だけ、あるいは特定の管理職だけが加入する保険は、実質的にその人たちへの「特別な利益供与」です。税務署はこれを給与の一種とみなします。つまり、会社側は損金にできないばかりか、対象者には所得税・住民税が追加でかかってくるのです。
実際にあった否認のケース
私が見てきた事例では、役員5名だけを被保険者にした養老保険に加入し、保険料を全額福利厚生費として計上していた会社がありました。税務調査で「加入要件が普遍的でない」と指摘され、保険料相当額がまるごと役員への賞与認定に。
結果、法人税の追徴に加えて、役員個人にも所得税の追徴課税が発生しました。しかも賞与認定された金額は損金不算入となるため、法人税の負担も同時に増えるという、まさに踏んだり蹴ったりの展開です。
保険営業の担当者は「節税になる」としか説明してくれないことが多いのですが、加入要件のチェックまでは踏み込んでくれないケースがほとんどです。この部分は、契約前に必ず自社で確認しておく必要があります。
規程整備も忘れずに
加えて見落とされがちなのが、社内規程の整備です。福利厚生制度として認められるには、誰がどのような条件で加入できるのか、給付内容はどうなっているのかを、就業規則や福利厚生規程として明文化しておく必要があります。
口頭での運用や、その場しのぎの加入では、税務調査で「制度として存在していたのか」自体を疑われます。規程は加入前に整えておくのが鉄則です。
加入前に確認すべきポイント
- 被保険者は全従業員(パート・契約社員含む)が対象になっているか
- 加入条件に勤続年数や職種などの制限がある場合、それが合理的な線引きか
- 福利厚生規程が整備され、社内で周知されているか
- 保険料の負担割合や給付内容が、役職によって不当に差をつけていないか
これらを一つでも満たしていなければ、福利厚生費としての損金算入は認められない可能性が高いと考えられます。
保険は使い方次第で有効な節税・保障手段になりますが、「福利厚生」という看板だけを借りて役員優遇の制度を作ってしまうと、本末転倒な結果を招きます。契約前に、顧問税理士に加入要件を確認しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。