先日、顧問先の社長から「保険営業さんに1億円の保障を勧められたんですが、これで本当に安心なんでしょうか」という相談を受けました。
話を聞くと、万一のときに会社が保険金を受け取り、それを遺族への退職金や事業継続資金に充てるという、よくある法人保険の提案でした。金額も保障内容も悪くありません。ただ、ひとつ大事な数字が抜け落ちていました。
保険金には法人税がかかる
個人が受け取る死亡保険金は、契約形態によっては非課税枠がありますが、法人が受け取る死亡保険金はそうはいきません。法人が受け取った保険金は「益金」、つまり会社の利益として扱われます。
何も対策をしなければ、法人税・住民税・事業税を合わせておよそ3割前後がそのまま税金として消えていきます。1億円の保険金であれば、手元に残るのは7000万円ほど。「1億円の保障のはずが、実際に使えるのは7割」というのが現実です。
社長がこれを知らずに保障額を決めてしまうと、いざというときに「思っていたより資金が足りない」という事態になりかねません。遺族への退職金、当面の運転資金、金融機関への返済など、必要な資金を積み上げて1億円という数字を出したのなら、税引き後で7000万円しか残らないのは致命的なズレです。
損金とぶつけて手取りを最大化する
ここで効いてくるのが、死亡退職金と弔慰金の規程です。
会社が保険金を受け取ると同時に、あらかじめ整備しておいた規程に基づいて遺族へ死亡退職金と弔慰金を支払う。この支払いは会社にとって損金になるため、受け取った保険金という益金と相殺されます。結果として、法人税の負担を大きく圧縮できます。
弔慰金については、業務上の死亡か業務外の死亡かによって非課税とできる範囲が異なり、死亡退職金にも功績倍率などの相場観があります。ここを規程なしに「なんとなく多めに払う」形にしてしまうと、税務調査で過大認定を受け、想定していた損金算入が否認されるリスクがあります。規程を整え、金額の根拠を残しておくことが前提条件になります。
保障額は「税引き後」で逆算する
もうひとつ重要なのが、保障額の決め方です。
「必要資金が1億円だから保険金も1億円」ではなく、法人税と規程による損金効果を織り込んだ上で、税引き後に7000万円ではなく実際に必要な1億円が手元に残るよう、保障額を逆算して設計する必要があります。
つまり、保険は入って終わりではなく、規程・保障額・税務処理の3点がそろって初めて「機能する保険」になります。保険営業の提案書に出てくる保障額の数字だけを見て契約すると、税金分だけ資金が目減りした状態で本番を迎えることになりかねません。
弔慰金・死亡退職金の規程は株主総会や取締役会での決議、規程の書面化など、整備に一定の時間がかかります。加入時にまとめて設計しておくのが理想ですが、既に加入済みで規程がない場合も、今期中に整備しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。