先日、地方の製造業を営む後継者の方からこんな相談を受けました。祖父の代からの相続を経て、気づけば会社の株主名簿に見覚えのない名前がずらりと並んでいたそうです。

「会ったこともない親戚が株主になっていて、正直どう向き合えばいいのか分からない」。そう肩を落とす姿を見て、この問題は決して珍しいものではないと改めて感じました。

少数株主だからと油断してはいけない

「持株数が少ないから大丈夫」と考えている経営者は多いのですが、これは誤解です。少数株主であっても、会社法上さまざまな権利を持っています。

代表的なのが配当請求権と帳簿閲覧権です。会ったこともない遠縁の株主から、ある日突然「決算書を見せてほしい」「配当を出してほしい」と言われるケースは実際に起きています。

経営に関心のない株主であっても、権利は権利として行使できてしまいます。放置すればするほど、いつどこから声が上がるか分からない状態が続くことになります。

株価は会社の成長とともに上がっていく

ここで多くの後継者が直面するのが、「買い取りたくても、いくらで買えばいいのか分からない」という悩みです。

非上場株式の評価額は、会社の業績や純資産が伸びるほど高くなっていきます。今期の利益が好調であれば、来期の株価評価はさらに上がっている可能性が高いということです。

仮に今、1株あたりの評価額が5,000円だとして、会社が順調に成長を続ければ、5年後には8,000円、10年後には1万円を超えていても不思議ではありません。買い取る株式数が多ければ、この差額はそのまま数百万円、場合によっては数千万円単位の負担増につながります。

つまり分散株の集約は、先延ばしにするほど高くつく買い物になるということです。逆に言えば、業績がまだ伸びきっていない、あるいは相続直後で評価額が固まったタイミングこそ、集約のコストを抑えられる好機だといえます。

集約を進める上での実務のポイント

分散株を集約する際には、いくつか押さえておきたい実務上のポイントがあります。

  • 株主名簿を最新の状態に整備し、連絡先が不明な株主を洗い出す
  • 買取価格の算定根拠(純資産価額方式や類似業種比準方式など)を税理士とすり合わせておく
  • 遠縁の株主とは、いきなり買取交渉ではなく、まず関係性を作るところから始める

特に連絡先すら分からない株主が存在するケースは珍しくありません。この場合、戸籍調査や相続人調査から着手する必要があり、時間がかかることも見込んでおくべきです。だからこそ「気づいた今」が動き出す最適なタイミングになります。

早めの一歩が、将来の負担を軽くする

自社株の分散は、経営権の不安定化と将来の買取コスト増大という、二重のリスクを会社にもたらします。会ったこともない株主が名簿に並んでいる状態を「まあ今のところ実害はないから」とそのままにしておくと、数年後に想定以上の負担となって返ってくることが少なくありません。

もし御社の株主名簿に見覚えのない名前があるなら、まずは名簿の整理と評価額の現状把握から始めてみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。