先日、後継者候補の方からこんな相談を受けました。「正直、継ぐか迷っています。もし継がずに畳むとしたら、税金ってどうなるんですか」。
跡を継ぐかどうかは人生を左右する重い決断です。ただ、その先にある「畳む」という選択肢について、税金の話まで考えている方は意外と少ないものです。
清算で残ったお金は「配当」として課税される
会社を清算するときの流れはシンプルです。会社の資産をすべて売却し、借入金などの負債を返済し、最後に残った財産を株主に分配します。
ここで見落とされがちなのが、この分配金の税金の重さです。残余財産の分配は税務上「みなし配当」として扱われ、給与や退職金とは全く違う課税ルールが適用されます。
配当所得は他の所得と合算する総合課税の対象で、所得税・住民税を合わせると税率は最高で45%程度、さらに一定の場合には社会保険料相当の負担も加わり、実質5割近くまで手取りが目減りするケースがあります。
何十年もかけて社内に積み上げてきた利益剰余金が、最後の最後でここまで削られると聞くと、多くの経営者が言葉を失います。実際、先ほどの後継者候補の方も「思ったより重いですね…」とつぶやいていました。
清算前に「退職金」を払い切っておく
この重い課税を和らげる代表的な方法が、清算前に役員退職金を適正額まで払い切っておくことです。
退職所得は勤続年数に応じた退職所得控除があり、さらに控除後の金額を2分の1にしてから課税するという優遇があります。同じ会社の利益を株主に還元するにしても、配当として受け取るのと退職金として受け取るのとでは、手取りの差が数百万円単位で生まれることも珍しくありません。
清算の直前になって慌てて退職金規程を整備しようとしても、功績倍率や勤続年数の裏付けが薄いと税務署から否認されるリスクがあります。畳むと決めてから動くのではなく、畳む可能性が頭をよぎった時点で退職金の設計に着手するくらいの余裕が必要です。
清算とM&A、どちらが手取りが多いか
もう一つ検討すべきなのが、清算せずに会社ごと第三者に売却するM&Aという選択肢です。
株式譲渡でのM&Aは譲渡益に対して約20%の分離課税で済むため、総合課税で最大5割近くになりうる配当課税に比べると、税負担だけを見れば圧倒的に有利になる場合があります。
買い手が見つかるかどうか、従業員の雇用をどうするかといった経営判断も絡むため一概には言えませんが、少なくとも「清算した場合の手取り」と「売却した場合の手取り」を数字で比較したうえで結論を出す価値は十分にあります。
畳むにも数年がかりの計画が要る
退職金の設計、資産の含み損益の整理、M&Aとの手取り比較。どれも一朝一夕にはできません。清算を決めてから動き出したのでは、使える選択肢がほとんど残っていないというのが実情です。
後継者が決まらない、あるいは継がない意思が固まってきたなら、「畳む」も一つの経営判断として、数年単位の準備期間を見込んで動き始めることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。