先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。
「うちは3月決算なんですが、毎年この時期がうちの一番の繁忙期でして。決算対策どころじゃないんですよ」
話を聞くと、設立時に何となく3月決算にしただけで、自社の繁忙期との兼ね合いなど一度も検討したことがなかったそうです。何年も同じことを繰り返し、そのたびに「今期も間に合わなかった」とこぼしていました。
決算月は会社の都合で決まっていることが多い
実は、3月決算の会社は日本で非常に多く存在します。国の会計年度に合わせただけ、設立時にたまたまその時期だった、あるいは前任の税理士に勧められるまま決めた、という会社も少なくありません。
つまり、自社の売上サイクルや資金繰りを踏まえて戦略的に決算月を選んでいる会社ばかりではないということです。
この社長の場合、繁忙期の真っ只中に決算日が来てしまうため、現場は目の前の受注対応に追われ、経理も決算作業に追われ、節税策を検討する余力が誰にも残っていませんでした。結果、利益が出ていることに気づくのは申告直前で、打てる手はほとんど残っていない状態が毎年続いていたのです。
決算月は変えられる。しかも登記は不要
ここで意外と知られていないのが、決算月は事業年度の途中からでも変更できるという事実です。
手続きとしては、定款に定めた事業年度を株主総会の決議で変更し、税務署・都道府県・市町村へ異動届出書を提出するだけで完了します。法人登記簿には事業年度が記載されないため、登記の変更は必要ありません。
株主総会と言っても、中小企業であれば議事録を作成して臨時株主総会を開催する形で進められることがほとんどで、手続きにかかる時間も費用も、多くの社長が想像するより軽いものです。
この社長も「そんなに簡単だったのか」と驚いていましたが、実際、決算月の変更自体は税理士に依頼すれば数週間程度で完了するケースが一般的です。
なぜ繁忙期の前に決算を締めるべきなのか
決算月を変える意味は、単に忙しい時期をずらすことだけではありません。本質は、利益予測の精度が上がることにあります。
売上の山が来る前に決算を締めれば、その事業年度の利益がある程度固まった状態で決算を迎えられます。逆に繁忙期の真っ只中に決算日が来ると、土壇場で想定外の利益が積み上がり、対策を打つ時間がないまま申告を迎えることになります。
たとえば繁忙期に大型受注が集中する会社であれば、その山が終わったタイミングを期首に設定し、閑散期に決算日を持ってくることで、期の後半にじっくり利益予測と対策を検討する時間を確保できます。
役員報酬の見直し、決算賞与の支給、設備投資や共済への加入といった節税策は、いずれも実行までにある程度の準備期間を要します。決算日の直前に利益が急に見えてきても、間に合わない施策がほとんどです。
決算月変更を検討する際の注意点
もちろん、決算月の変更にはいくつか気をつけるべき点もあります。
変更した事業年度は1年に満たない「みなし事業年度」になるため、その期だけ税額計算や消費税の判定期間が変則的になります。金融機関からの借入がある場合は、決算期変更を事前に伝えておかないと、試算表の提出タイミングなどで行き違いが生じることもあります。また、取引先との契約や補助金の申請スケジュールが決算期を前提に組まれている場合は、影響がないか確認しておくと安心です。
とはいえ、これらは事前に税理士と擦り合わせておけば十分に対応できる範囲です。決算月そのものを変えられないと思い込んでいたことに比べれば、はるかに小さなハードルだと言えます。
決算月は、一度決めたら変えられないものではなく、経営の状況に合わせて調整できる道具のひとつです。もし自社の決算月が繁忙期と重なっていて毎年対策が後手に回っているなら、次の決算を待たず、一度顧問税理士に決算月変更の相談をしてみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。