先日、顧問先の後継者の方からこんな相談を受けました。「事業承継税制を使えば、株の相続税はゼロになるんですよね?」と、かなり前のめりな様子でした。

たしかに制度の説明資料には「納税猶予」の文字とともに、実質的に税負担がなくなるようなイメージで紹介されることが多いです。ですが、ここには大きな誤解が潜んでいます。

「免除」ではなく「猶予」という事実

事業承継税制は、非上場株式にかかる相続税や贈与税の納税を先送りできる制度です。ここで重要なのは、税額が消えるわけではないという点です。

あくまで「今は払わなくていい」というだけで、税金そのものは形を変えずに残り続けます。制度の名前に引きずられて、免除と勘違いしたまま経営を続けてしまう後継者は少なくありません。

猶予されている税額は、いわば時限爆弾のように制度の要件を満たしている間だけ止まっている状態だと考えてください。

要件を外れた瞬間に何が起きるか

問題は、この猶予には数十年単位で続く細かい要件がついて回ることです。株を売却した、会社を解散した、後継者が代表を退いた…こうした取消事由に該当すると、猶予は打ち切られます。

打ち切られた場合、猶予されていた税額をそのまま払えばよいわけではありません。猶予期間中の利子税が上乗せされた状態で、まとめて納税を求められます。

例えば承継から10年後に要件を外れた場合、当初の相続税額に加えて10年分の利子がのしかかってくる計算になります。株価が数千万円、数億円規模の会社であれば、この利子税だけでも無視できない金額になり得ます。

取消事由は経営判断そのものに直結する項目が多いのも厄介なところです。事業の先行きが厳しくなって会社をたたむ、後継者に不測の事態が起きて代表を交代する、こうした普通に起こり得る経営の局面が、そのまま納税義務の引き金になってしまいます。

数十年の管理体制を維持できるか

この制度を使うと決めた瞬間から、経営者は要件充足の状況を継続的に管理する義務を背負うことになります。都道府県への年次報告、税務署への継続届出書の提出など、事務的な負担も軽くありません。

提出を一度でも忘れると、それだけで猶予が打ち切られるケースもあります。制度を使い始めてから10年、20年と経つうちに、当時の担当税理士が引退していたり、社内の管理体制が変わっていたりすることも十分に考えられます。

節税効果の大きさばかりに目が向きがちですが、本当に見るべきは「この会社が、この先何十年も要件を維持し続けられる体制にあるか」という一点です。

使う前に見極めるべきこと

事業承継税制は、使いこなせれば強力な制度です。ですが、その強力さは「猶予」という不安定な土台の上に成り立っていることを忘れてはいけません。

会社の将来性、後継者の年齢や健康状態、株式を将来売却する可能性の有無。こうした要素を総合的に見たうえで、本当にこの制度が自社に合っているのかを、専門家と一緒に慎重に検討することをおすすめします。

目先の相続税がゼロに見えることに飛びつく前に、一度立ち止まって長期的なリスクを試算してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。