先日、医療機器メーカーを経営する60代の社長から、こんな相談を受けました。「そろそろ息子に会社を任せようと思っているんだが、相続のことを考えたら夜も眠れなくて」と。

理由を聞くと、自社株の評価額が10億円を超えていることはわかっているのに、相続税がいくらかかるか一度も試算したことがないというのです。

自社株は「資産」ではなく「爆弾」になりうる

社長が頑張って会社を成長させると、自社株の評価額も自然に上がっていきます。これ自体は喜ばしいことです。でも、相続の場面になると話がガラリと変わります。

自社株は現金ではありません。しかし相続税の計算では、純粋な資産として評価されます。評価額が10億円を超えるような会社なら、相続税の最高税率55%が適用され、税負担が数億円規模になることもあります。

問題は、その税金を払うための現金が手元にないことが多い点です。非上場株式はすぐに売れるものではなく、後継者が個人で数億円を用意するのはほぼ不可能です。「会社は残せたけれど、相続税で家族が追い詰められた」という話は、決して他人事ではありません。

対策その1:事業承継税制の特例措置

こうした問題に対応するために設けられたのが、「事業承継税制の特例措置」です。後継者への自社株の移転(相続・贈与)に際して、本来発生するはずの相続税・贈与税の納税を猶予・免除できる制度です。要件を満たせば、数億円規模の税負担がゼロになる可能性もあります。

ただし、この特例措置には絶対に外せない期限があります。2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出することが必須条件です。

「2027年ならまだ余裕」と感じるかもしれませんが、実際には今すぐ動き始めないと間に合わないケースが多いです。計画の策定には税理士や中小企業診断士との連携が必要で、会社の状況整理から書類作成まで半年以上かかることも珍しくありません。

対策その2:株価を合法的に下げる「株価対策」

相続税は「評価額」をベースに計算されます。つまり、評価額を合法的に下げることができれば、税負担そのものを減らせます。

非上場株式の評価には「類似業種比準価額方式」や「純資産価額方式」などが使われますが、会社の利益水準・配当水準・純資産額が評価額に大きく影響します。

たとえば、利益が高い年に役員報酬を適切に設定して利益を調整したり、内部留保の使い方を見直したりすることが、株価対策につながることがあります。「節税のためだけに利益を減らす」のではなく、経営の合理性の範囲内で行うことがポイントです。

この株価対策は、事業承継の数年前から計画的に取り組むほど効果が出やすくなります。直前になって慌てても、評価額はすぐには下がりません。

「まだ元気だから」が一番危ない

事業承継の相談で最もよく耳にする後悔の言葉は、「もっと早く動けばよかった」です。

社長が元気なうちに動けば、生前贈与という形で段階的に株を後継者に移すことができます。しかし、突然の病気や死亡となれば相続しか選択肢がなくなり、使える対策の幅が一気に狭まります。

事業承継税制の特例措置の申請期限は2027年末、株価対策の効果が出るには数年単位の時間が必要。どちらも「今動く」ことが前提の話です。

まずは顧問税理士に「自社株の評価額を試算してほしい」と一言聞いてみてください。数字を把握するだけで、次に何をすべきかが自然と見えてきます。動き始めるのに、早すぎるタイミングはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。