先日、ある製造業の元社長からこんな話を聞きました。
「調査で揉めるのが嫌でね。グレーなものは全部自腹にしていたよ。今思えば、絞りすぎだった」
現役時代、経費として認められるかどうか微妙な支出は、迷わず自分の財布から出していたそうです。税務署とトラブルになるくらいなら、多少の出費は我慢する。そう考えていたといいます。
この感覚、実はとても多くの経営者に共通しています。しかし結論から言うと、これは立派な「損」です。
経費を絞ることは、税金を多く払うことと同じ
事業に必要な支出であれば、堂々と経費に計上すべきです。怖がって計上しなければ、その分だけ課税対象の利益が膨らみます。
結果として、本来払わなくてよかった税金を余計に納めることになります。節税どころか、自ら増税を選んでいるようなものです。
税務調査への恐怖は理解できます。ただその恐怖の矛先が「経費を使うこと」自体に向いてしまうと、本末転倒になってしまいます。
大事なのは「隠すこと」ではなく「説明できること」
この元社長も、こう漏らしていました。
「どこで線を引けばよかったんだ」
答えはシンプルです。基準は「事業との関連を説明できるかどうか」。この一点に尽きます。
例えば、取引先との会食であれば、誰と、何のために会ったのかを説明できれば経費として認められる可能性が高くなります。逆に、完全なプライベートの飲食を経費に紛れ込ませるのは、そもそも別の問題です。
経費計上で本当に大切なのは、支出そのものの是非よりも「根拠を残しているか」です。
- 誰と、いつ、何のために使ったか
- 領収書やレシートに用途をメモしておく
- 会議費なら参加者リストを残す
- 出張費なら訪問先や目的をわかる形にしておく
こうした記録が、いざ税務調査が入ったときにあなたを守ってくれます。逆に記録がなければ、正当な経費であっても「説明できない支出」として疑われてしまいます。
攻めと守り、両方の視点を持つ
節税というと「いかに税金を減らすか」という攻めの発想だけで語られがちです。ですが実際に強いのは、攻めと守りの両方を押さえている経営者です。
攻めとは、使うべき経費を遠慮なく使うこと。守りとは、その経費の根拠をきちんと残しておくこと。
この両輪が揃って初めて、税務調査にも堂々と向き合える経営ができます。逆にどちらか一方が欠けると、今回の元社長のように「怖くて経費を絞りすぎる」か、あるいは「根拠のない経費で後から痛い目にあう」かのどちらかに傾いてしまいます。
税務調査は、正しく経費を使い、根拠を残している経営者にとっては、それほど恐れるものではありません。むしろ怖いのは、必要な経費を我慢し続けて、知らないうちに余計な税金を払い続けることです。
もし心当たりがあるなら、まずは直近の経費の使い方を見直してみるのがおすすめです。「事業との関連を説明できるか」という基準で棚卸しするだけでも、次の決算での動き方が変わってくるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。