決算前になると、こんな相談が増えます。「今期の利益が思ったより出てしまった。来期に回せる売上はないだろうか」と。
気持ちはよく分かります。ですが結論から言うと、これは税務調査で最も早く見つかる操作のひとつです。期末が近づくたびに同じ相談を受けるということは、税務署側も同じくらいの頻度でこのパターンを目にしているということでもあります。
「期ずれ」とは何か
売上や経費は、実際にモノやサービスが動いた事業年度に計上するのが原則です。これを意図的にずらし、期末の売上を翌期の売上として計上する行為を、実務では「期ずれ」と呼びます。
たとえば3月決算の会社が、3月中に商品を出荷したにもかかわらず、請求書の発行日を4月にずらして翌期の売上として処理する。あるいは検収が3月中に終わっているのに、入金確認を待ってから計上する。こうしたケースが典型例です。
狙いはシンプルで、当期の利益を圧縮して税負担を軽くすることです。ですが、これは節税ではなく、単なる先送りにすぎません。
出荷日と検収日は必ず突き合わされる
税務調査では、売上の計上時期を確認するために、出荷伝票や検収書の日付が真っ先にチェックされます。
理由は単純で、請求書の日付は会社側で調整しやすい一方、出荷や検収の記録は取引先や物流会社など第三者の証跡が残るからです。自社の帳簿だけを整えても、相手先に残る記録と突き合わされれば、ずれはすぐに発覚します。
実際、ある製造業の社長は、3月中に得意先へ納品を終えていたにもかかわらず、請求書の発行を4月にずらして翌期の売上として処理していました。ところが調査官は得意先に直接、納品書と検収印の日付を確認し、3月中に検収が完了していた事実を突き止めました。結果として、その売上は当期の売上に修正され、追加の税金だけでなく延滞税も課されることになりました。
先送りしても税額はゼロにならない
ここで見落とされがちなのが、期ずれは税金を「減らす」のではなく「先送りする」だけだという点です。
翌期に計上すれば、その分翌期の利益が増え、翌期の税負担が重くなります。つまり、うまくいったとしても得られるのは1年分の資金繰りの猶予程度で、税額そのものが減るわけではありません。
それにもかかわらず、否認された場合は本来の期の税額に加えて、過少申告加算税や延滞税まで上乗せされます。得られるはずだった猶予以上のコストを、後から支払う羽目になるのです。
正しい対処は「計上基準を決めて守る」こと
期ずれを避けるために必要なのは、複雑なテクニックではありません。自社の売上計上基準を、出荷基準なのか検収基準なのか、あらかじめ明確に決めて、それを毎期一貫して運用することです。
基準さえ決まっていれば、あとは実際の出荷日・検収日どおりに淡々と計上すればよいだけです。決算間際になって「今期の数字をどう見せるか」を考える必要自体がなくなります。
もし今期の利益が想定より膨らんでしまったのであれば、売上の計上時期をいじるのではなく、設備投資や決算賞与、各種引当金の活用など、正攻法の節税策を検討する方が、はるかに安全で確実です。
もし自社の売上計上基準があいまいなまま運用されているようなら、決算を迎える前に、出荷基準か検収基準かを一度きちんと整理しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。