先日、創業から30年の製造業の社長からこんな相談を受けました。「息子は東京で会社員をしていて、うちを継ぐ気は全くない。かといって従業員に譲るにも、あいつらにそんな金があるわけない。廃業しかないのか」。

実はこのケース、廃業以外にもう一つ現実的な道があります。それがMBO(マネジメント・バイアウト)です。

MBOとは何をすることなのか

MBOとは、会社の役員や従業員が、オーナー社長から自社の株式を買い取り、経営権を引き継ぐ手法です。

親族外承継の一種ではありますが、M&Aで外部の会社に売却するのとは違います。長年一緒に働いてきた番頭格の役員や、現場をよく知る幹部社員がそのまま経営者になるため、社風や取引先との関係が途切れにくいのが特徴です。

先ほどの社長も、専務を務める入社20年のベテラン社員に打診したところ、「自分でよければ」と前向きな返事があったそうです。人はいる。問題は資金でした。

買収資金はどう作るか

多くの役員・従業員は、会社の株式を時価で買い取れるだけの個人資産を持っていません。ここで実務上よく使われるのが、受け皿となる持株会社(SPC)を新たに設立し、金融機関からの融資でそのSPCが株式を買い取るというスキームです。

買収後は、対象会社が生み出すキャッシュフローで、SPCが借入を返済していきます。いわゆるレバレッジド・バイアウト(LBO)に近い形です。

地方銀行や信用金庫は、既存の経営陣が引き継ぐMBOには比較的融資審査で前向きな傾向があります。廃業されて取引先の会社ごと失うより、事業が継続してくれる方が金融機関にとってもメリットがあるからです。

見落とされがちな税務の壁

ここで社長側が忘れがちなのが、株式譲渡にかかる課税です。

オーナー社長が保有する非上場株式を譲渡すると、譲渡益(売却額から取得費を引いた額)に対して、原則として20.315%の申告分離課税がかかります。長年経営してきた会社ほど株価評価が高くなっている場合が多く、想定より税負担が重くなるケースは珍しくありません。

さらに、譲渡価格の設定自体にも注意が必要です。時価より著しく低い価格で譲渡すると、その差額が贈与とみなされて贈与税が課される可能性があります。逆に高すぎる価格設定は、買い手側であるSPCの資金負担を過度に重くしてしまいます。

自社株の評価は、業績や純資産の状況によって毎期変動します。譲渡のタイミングを決算期のどこに置くかで、税負担も買い手の返済計画も大きく変わってくるのです。

早めの相談が結果を分ける

MBOは「後継者がいないから終わり」ではなく、経営を託せる人材が社内にいるなら十分検討に値する選択肢です。ただし、株価評価・資金調達・税務設計の3つが複雑に絡み合うため、思い立ってから半年や1年で完結するものではありません。

冒頭の社長も、専務との話し合いと並行して、顧問税理士や金融機関に相談を始めたところです。廃業を決断する前に、一度は検討してみる価値のある選択肢だと思います。

後継者不在に悩んでいるなら、まずは自社株の評価額を確認するところから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。