先日、創業27年の印刷業の社長(63歳)からこんな相談を受けました。「息子は都内で働いていて、継ぐ気はゼロ。このまま自分が倒れたら、会社はどうなるんだろう」と。

従業員は15名、取引先も30社以上。長年かけて築いたものが、後継者不在というだけで消えてしまうかもしれない。そのプレッシャーは相当なものです。

実は、この悩みを抱える経営者は非常に多く、中小企業庁の調査では後継者不在率は60%を超えているとも言われています。毎年数万社が廃業を選んでいますが、その中には「解決策を知らなかった」だけのケースも少なくありません。

今日は、後継者がいなくても会社を守るための3つの選択肢を整理してお伝えします。

第3位:社内の右腕に任せるMBO

意外と盲点になりがちなのが、長年一緒に働いてきた幹部社員に経営を引き継いでもらうという方法です。これをMBO(マネジメント・バイアウト)と呼びます。

「でも、社員にそんなお金があるの?」という疑問はよく聞きます。ここで活用できるのが金融機関の事業承継向け融資制度です。要件を満たせば、社員がほぼ自己資金なしで株を取得し、代表に就任できる仕組みが組めることがあります。

外部の第三者に渡すのではなく、会社の文化や人間関係をよく知る人材が引き継ぐため、従業員や取引先への影響が最小限で済むのも大きなメリットです。「誰かに売るのは気が引ける」という社長に、まず検討してもらいたい選択肢です。

第2位:M&Aで会社ごと売却する

「M&Aは大企業の話でしょ?」と思っている社長ほど、この現実を知ると驚きます。年商1億〜5億円規模の中小企業でも、今は非常に活発に売買が行われています。

しかも、廃業よりも高い価格で売れるケースが多い。設備、技術力、顧客リスト、従業員のスキル——これらは買い手企業にとって魅力的な資産です。ゼロで終わらせるのではなく、価値をお金に換えて引退できる。

最近ではM&Aのマッチングサービスが充実しており、早ければ6ヶ月〜1年で買い手が見つかることもあります。売却後も数年間は顧問として残ることや、従業員の雇用継続を条件に交渉することも可能です。廃業の前に、一度査定だけでも受けてみる価値は十分あります。

第1位:知らないと損する事業承継税制の特例措置

そして、節税効果という観点で最も注目すべきなのが「事業承継税制の特例措置」です。後継者に自社株を渡す際にかかる贈与税・相続税が、要件を満たせば最大100%猶予されます。

自社株の評価額が1億円なら、本来は数千万円単位の税負担が発生します。それが実質ゼロになり得る。この差は、後継者候補の意欲に直結します。「税金が高すぎて引き受けられない」という声が激減します。

ただし、この特例を使うには都道府県への「特例承継計画」の申請が必要です。そして申請期限は2027年12月末。これが見落とされがちな最大の落とし穴です。

「まだ1年以上ある」と思うかもしれませんが、計画の策定・専門家との相談・書類の整備を考えると、今から動いてちょうどいい。期限を過ぎれば、この特例は二度と使えません。

「知らなかった」では取り返せない

冒頭の印刷業の社長には、この3つを順番に説明しました。特に事業承継税制の申請期限を伝えたときの表情は忘れられません。「そんな制度があったんですか」と。

後継者問題は「決断の問題」である前に「情報の問題」です。選択肢を知らないまま廃業を選ぶのは、本当にもったいない。

まだ後継者を決めていないなら、2027年の期限を意識しながら、今期中に事業承継を専門とする税理士に一度相談してみることをおすすめします。動き出すのは、早ければ早いほど選択肢が増えます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。