先日、飲食チェーンを経営する60代の社長から相談を受けました。

「子どもたちは東京でサラリーマンをしています。会社を継ぐつもりはないって言われていて。まだ先のことかな、と思って何もしていないんですよね」

その言葉が引っかかりました。年商3億円、従業員20名、地域に根付いた会社です。でも「後継者がいない」という状態が続けば、その価値はじわじわと消えていきます。

後継者不在が引き起こす「静かな廃業」

中小企業庁の調査によると、2025年時点で中小企業の約半数に後継者がいない状況です。廃業を選ぶ経営者が増えている背景には、単純な「儲からない」ではなく「誰にも継がせられない」というケースが多い。

問題は廃業するかどうかではなく、計画的に動けるかどうかです。何もせずに65歳、70歳を迎えると、選択肢は急速に狭まります。体力・判断力が落ちてから交渉を始めようとしても、相手が見つからなかったり、事業承継税制の特例期限を過ぎていたりする。そういう「手遅れ」のケースが全国で増えています。

では、今動けるうちにどんな手が打てるのか。現時点での解決策を3つ紹介します。

3位:M&A――億単位の現金を手にする選択肢

「M&Aは大企業の話」という認識は、もう古いです。

今は中小企業専門の仲介会社が急増していて、年商1〜10億円規模の会社の売却が日常的に行われています。売却額の目安は「EBITDA(税引き前利益+減価償却費)の3〜5倍」が一般的です。

たとえば、年間利益が3,000万円の会社なら、9,000万〜1.5億円の現金が手に入る可能性があります。社長が引退でき、社員の雇用も守られ、現金化もできる。三拍子そろった選択肢です。

ただし、買い手探しと交渉には通常1〜2年かかります。「そろそろかな」と思い始めたら、早めに動くのが正解です。

2位:従業員承継――信頼できる社員に引き継ぐ

「会社は売りたくない。でも身内に継がせる気もない」という社長に向いているのが従業員承継です。

長年一緒に働いてきた幹部や番頭さんに株式を譲渡して、経営を任せる方法です。「本人の実力は申し分ないが、株を買うお金がない」という問題が多くのケースで出てきます。

ここで活用できるのが、日本政策金融公庫や信用保証協会の「事業承継融資」です。後継者候補への融資が認められるスキームがあり、自己資金ゼロでも承継を実現できる事例が出てきています。

社長が会社に貸付金を持っている場合は、そこと相殺する方法もあります。資金スキームは税理士と金融機関が連携して設計するのがスムーズです。

1位:事業承継税制の特例措置――株式の税負担を最大100%猶予

3つの中で、インパクトが一番大きいのがこれです。

事業承継税制とは、後継者に株式を引き継いだ際にかかる贈与税・相続税を最大100%猶予してくれる制度です。業績の良い中小企業の株式は、評価額が数千万〜数億円になることも珍しくありません。その税負担がほぼゼロになるというのは、相当な話です。

ただし、特例措置を活用するには「特例承継計画」の提出が必要で、その期限が2027年12月31日です。

2027年、まだ先に見えるかもしれません。しかし計画書の作成には専門家の関与が必要で、承継手続き全体を逆算すると、今年中に動き出すべき社長がほとんどです。この期限を過ぎると、猶予割合が大きく下がる通常措置しか使えなくなります。何千万円単位の税負担の差が出ることもある、見逃せない話です。

「まだ早い」が一番危険

事業承継の相談で多いのは、「もっと早く来ればよかった」という後悔の声です。

65歳を過ぎてから動き始めると、M&Aの交渉力も、従業員への引き継ぎ期間も、特例税制の活用余地も、どんどん狭くなっていきます。まず顧問税理士に「うちの株式評価額を計算してほしい」と一言伝えてみてください。数字を見れば、何をすべきかが自然と見えてきます。

まだ60代なら、まだ間に合います。でも60代のうちに動き出すことが前提です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。