先日、地方で部品加工業を営む3代目社長から、こんな相談を受けました。「株主名簿を見たら、いとこや叔父の名前まで並んでいて、正直誰が何株持っているのか把握しきれていません」と。

創業から60年、代替わりのたびに株式を親族に分けてきた結果、株主は十数名に膨れ上がっていました。配当を出すたびに全員に連絡を取り、重要な決議をしようにも一人でも反対されれば議決権割合でもめる——そんな状態です。

株が分散すると、何が困るのか

中小企業では、相続のたびに自社株を子や孫、兄弟に少しずつ分ける「分散相続」がよく行われます。表向きは公平に見えますが、これが後継者を長期的に苦しめる原因になります。

株主が10人を超えてくると、株主総会の招集通知だけでも一苦労です。しかも親族間の関係が良好なうちはよくても、世代が変わり疎遠になった株主が出てくると、増資や事業再編の決議で急にブレーキがかかることがあります。

さらに厄介なのは、分散した株がそのまま次の相続でまた枝分かれしていくことです。何もしなければ、株主の数は世代を経るごとに増える一方で、後継者が実質的な経営権を握れなくなるリスクが高まります。

持株会社を挟むという発想

こうした状況を整理する手段のひとつが、持株会社を設立して株式を集約するスキームです。親族が個別に持っている事業会社の株式を、株式交換や株式移転といった手法で持株会社に集めます。

イメージとしては、これまで10人の株主がそれぞれ事業会社の株を直接持っていた状態から、その全員が持株会社の株主になり、持株会社が事業会社の株式をまとめて保有する形に変わります。

こうすることで、事業会社の議決権自体は持株会社に一本化され、後継者が持株会社の経営権を握ってさえいれば、事業会社の意思決定をスムーズに進められるようになります。親族株主はそのまま持株会社の株主として残るため、いきなり株を手放させる必要がない点も、心理的なハードルを下げてくれます。

評価対策の余地が生まれるのも見逃せない

議決権の集約に加えて、持株会社を経由することで自社株の評価設計に手を加えられる余地が生まれるのも、このスキームの特徴です。

持株会社に借入や不動産といった資産構成を組み合わせることで、株式の評価額をコントロールしやすくなるケースがあります。分散のたびに評価がバラバラになっていた状態から、評価の設計を持株会社という一つの器の中で一元管理できるようになるイメージです。

ただし、これはあくまで「対策の余地が生まれる」という話であり、組み方次第では期待した効果が出ないこともあります。設計は個社の状況によって大きく変わる部分なので、慎重に検討する必要があります。

設立・株式移動にかかる課税に要注意

ここで社長にも必ず伝えているのが、持株会社を作る過程そのものに課税が絡むという点です。

株式交換や株式移転は、税制適格要件を満たさない形で行うと、株式の移転時点で時価評価され、含み益に対してみなし譲渡課税がかかることがあります。個人株主から持株会社への株式の移し方によっては、贈与税が発生する組み方になってしまうケースもあります。

また、対価の設定が不適切だと、税務署から低額譲渡や高額譲渡として否認される可能性も出てきます。株主が十数名いる状態でこれを行うとなると、一人ひとりの持株比率や取得時期によって税務上の扱いが変わってくるため、設計の難易度はかなり上がります。

「議決権をまとめたい」という目的が先行して、税務面の検討が後回しになってしまう相談を何度も見てきました。持株会社の設立自体は登記だけ見れば簡単ですが、そこに至るまでの株式移転の設計こそが本丸だと考えてください。

動き出すなら、株主構成の棚卸しから

株式の分散は、放置すればするほど後の整理が難しくなります。株主が増え、関係が疎遠になり、それぞれの株の取得価額や経緯があいまいになっていくからです。

持株会社スキームは、こうした分散を整理する有効な選択肢のひとつですが、万能の解決策ではありません。税制適格要件を満たす設計にできるか、対価設定は妥当か、そもそも持株会社に経営実態を持たせられるか——検討すべき論点は多岐にわたります。

まずは自社の株主名簿を棚卸しして、誰がどれだけの株をいつ取得したのかを整理するところから始めてみてください。その情報がそろって初めて、持株会社という選択肢が現実的かどうかを判断できるようになります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。