先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「そろそろ自社株を息子に渡したいのですが、贈与税が怖くて動けないんです」。

業績が良く、株価が右肩上がりの会社ほど、この悩みは深刻です。今渡すべきか、相続まで待つべきか。判断を誤ると、数百万円単位で税負担が変わってきます。

2500万円まで非課税、でも「非課税」ではない

この社長に紹介したのが「相続時精算課税」という制度です。60歳以上の親から18歳以上の子や孫への贈与について、2500万円までは贈与税がかかりません。

ただし、ここに大きな誤解が生まれます。「非課税」という言葉だけを聞くと、税金がまるごと消えるように感じますが、実態は少し違います。

この制度は税金を免除するものではなく、先送りする仕組みです。贈与した財産は、将来の相続が発生したときに、相続財産に足し戻されて相続税を計算し直します。つまり「今は払わなくていいが、いずれ精算する」というのが正確な意味なのです。

先の社長も「じゃあ結局かかるんですか」と聞き返してきました。答えは半分イエス、半分ノーです。

早期移転が効くのは「値上がりする株」だから

ここで重要なのが、相続財産に足し戻す金額は「贈与した時点の評価額」で固定されるという点です。

つまり、業績好調で株価がこれから上がっていく会社なら、評価額が低いうちに贈与しておけば、将来の相続税計算に使われる金額も低いまま固定できます。10年後に株価が2倍になっていたとしても、精算の基準は贈与時の評価額のままです。

逆に言えば、業績が伸び悩んでいる会社や、将来値下がりが見込まれる資産にはあまり向きません。この制度が生きるのは「今後も成長が見込める会社の自社株」というケースに限られると考えてください。

2024年から加わった年110万円の基礎控除

もうひとつ押さえておきたいのが、2024年の税制改正で新設された、年間110万円の基礎控除です。

これまでの相続時精算課税は「2500万円まで贈与税ゼロ、その代わり将来は全額精算」という一括型の制度でした。ところが今は、毎年110万円までの贈与について、そもそも相続財産に足し戻さなくてよいというルールが加わっています。

これにより、2500万円の非課税枠とは別に、毎年少しずつ資産を移しながら、その分は相続税の計算から完全に切り離せるようになりました。長期的に自社株や不動産を移転していきたい社長にとっては、選択肢が広がった改正だと言えます。

暦年贈与との比較を忘れずに

もう一点注意したいのは、相続時精算課税を一度選ぶと、同じ贈与者からの贈与については暦年課税(毎年110万円の基礎控除を使う従来型の贈与)に戻せないという点です。

株価の伸びが緩やかで、時間をかけて少しずつ移したいだけなら、暦年贈与のほうが向いているケースもあります。どちらが有利かは、株価の伸び率や承継までの残り年数によって変わってくるため、この判断だけは慎重に行ってください。

自社株の生前贈与を検討しているなら、「非課税だから得」という短絡的な判断ではなく、将来の値上がり見込みと精算のタイミングまでセットで考えることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。