先日、後継者候補として会社に入った30代の息子さんから、こんな相談を受けました。「毎年110万円ずつ、コツコツ贈与を受けています。これで父の相続財産は着実に減っているはずですよね」
自信満々にそう話す彼に、私は少し困った顔をして答えました。「実はそのタイミング次第で、贈与した分がまるごと相続財産に戻されることがあるんです」
暦年贈与、非課税でも「なかったこと」になる期間がある
生前贈与の王道と言えば、年間110万円まで贈与税がかからない「暦年贈与」です。毎年コツコツ贈与を重ねれば、贈与税を払わずに財産を子や孫に移せます。
ところがこの制度には見落とされがちな条件があります。贈与した人が亡くなる前の一定期間内の贈与は、非課税だったかどうかに関係なく、相続財産に足し戻されて相続税の計算対象になるのです。せっかく非課税で贈与したはずなのに、相続の時点で「なかったこと」にされてしまう。これが「生前贈与加算」と呼ばれるルールです。
3年から7年へ、2024年改正で対象期間が倍以上に
これまでこの加算期間は「相続開始前3年以内」でした。つまり、亡くなる3年より前の贈与であれば、加算対象から外れて安全圏だったわけです。
しかし2024年の税制改正で、この期間が段階的に7年まで延長されることになりました。2024年1月1日以後の贈与から新ルールが適用され、加算期間は毎年少しずつ伸びていき、2031年以降は完全に7年間となります。
延長された4年分(相続開始前4年〜7年)の贈与については、合計100万円までは加算対象から除外するという緩和措置も設けられていますが、それでも影響の大きさは実感していただけると思います。単純計算で、加算される可能性のある期間が2倍以上に広がったということです。
具体例で見る影響の大きさ
例えば、毎年110万円ずつ贈与を続けていた社長が、贈与開始から10年後に亡くなったとします。旧ルールなら、相続直前の3年分、つまり330万円だけが相続財産に足し戻される計算でした。
新ルールでは、直前7年分、単純計算で770万円のうち670万円(100万円控除後)が足し戻される可能性があります。同じ贈与の仕方をしていても、亡くなるタイミング次第で相続税の計算に乗ってくる金額が3倍近く変わってくるのです。
早く始めるほど、加算のリスクから逃げ切れる
この改正が示しているメッセージは実はシンプルです。「駆け込みで生前贈与しても、もう間に合いませんよ」ということです。
相続が発生するタイミングは誰にも読めません。だからこそ、贈与は早く始めれば始めるほど、7年の加算期間から抜け出せる贈与が増えていきます。逆に、後継者への贈与を「まだ先でいい」と先送りにしていると、いざという時にほとんどの贈与が加算対象に残ってしまうことになりかねません。
後継者への自社株や現預金の移転を検討しているなら、金額の大小よりもまず「始める年齢」を意識してください。70代で贈与を始めるのと60代で始めるのとでは、7年ルールの効き方がまったく変わってきます。
まだ生前贈与に着手していないなら、今年から少額でも始めておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。