先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「うちは社宅家賃の7割を会社の経費にしているから、これで節税はバッチリですよね」。
自信満々でしたが、そのやり方だと税務調査で痛い目を見る可能性があります。今日はその理由を、実際の計算式に沿ってお話しします。
「家賃の何割」という発想が、そもそもの落とし穴
社宅の経費化でよく聞くのが「家賃の50%」「7割」といった、割合だけで決めてしまう計算です。ネットの記事やSNSでも、こうした単純化した説明をよく見かけます。
ですが、この割合計算はあくまで一般社員向けの簡便的な取り扱いに近いもので、役員に適用できる正式なルールではありません。役員社宅の場合、賃貸料相当額は法人税基本通達に定められた算式に従って、きちんと計算する必要があります。
正しい算式は「固定資産税の課税標準額」がベース
役員社宅の賃貸料相当額は、家賃そのものではなく、その建物と敷地の固定資産税の課税標準額から逆算します。
小規模な住宅(木造なら132平方メートル以下など)であれば、建物の課税標準額に0.2%を掛けた金額、床面積に応じた定額、そして敷地の課税標準額に0.22%を掛けた金額。この3つを合計したものが賃貸料相当額です。
小規模住宅に該当しない広い住宅の場合は、また別の算式になり、会社が家主に払う家賃の50%相当額と比較して、高い方を採用するルールもあります。いずれにせよ「家賃×割合」という単純な発想ではなく、固定資産税評価がベースになっている点が重要です。
通達の式を使わないと、差額はまるごと給与認定される
国税OBの知人に聞くと、税務調査で最も多い否認パターンの一つが、まさにこの社宅家賃の計算ミスだそうです。
会社が正しい賃貸料相当額を計算せず、家賃の一定割合を社員負担として徴収していた場合、その通達上の相当額と実際に徴収していた金額との差額が、役員への給与とみなされます。
給与認定されると、その分の法人の損金算入は否認され、さらに役員個人には所得税・住民税が追加でかかります。加えて会社側は源泉徴収漏れとして追徴課税の対象にもなり、まさに踏んだり蹴ったりです。
具体例で見ると、差はかなり大きい
仮に家賃30万円のマンションを会社が借り上げ、役員から家賃の7割にあたる21万円を徴収していたとします。感覚的には「7割も負担しているから大丈夫」と思いがちです。
ところが通達の算式で計算すると、賃貸料相当額が月3万円程度になるケースは珍しくありません。この場合、必要な徴収額は3万円で済むところを21万円も多く払っていた、つまり過大に自己負担していたことになります。
逆のケースもあります。徴収額が算式上の相当額を下回っていれば、その差額が給与として認定され、追徴課税の対象になります。感覚値と通達の計算結果は、ずれることの方が多いと考えた方が安全です。
式さえ守れば、社宅は今でも強力な節税策
誤解しないでいただきたいのは、社宅制度そのものが悪いわけではないということです。むしろ通達の算式に従って正しく運用すれば、役員報酬を家賃負担分だけ実質的に増やしながら、個人の所得税・住民税の負担は抑えられる、非常に有効な節税策です。
重要なのは「家賃の何割」という感覚値ではなく、固定資産税の課税標準額を役所で確認し、通達の算式どおりに賃貸料相当額を計算すること。この一手間を惜しまなければ、社宅は今も十分に使える制度です。
もし今、社宅家賃を割合だけで決めているなら、次の決算までに固定資産税評価証明を取り寄せて、正しい賃貸料相当額を計算し直しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。