先日、都内で製造業を営む三代目社長からこんな相談を受けました。「自社株の評価額を見て青ざめた。これを子どもに継がせたら、贈与税だけで数千万円かかる」と。
決算書を拝見すると、内部留保が厚く優良企業であるがゆえに、自社株の評価額は年々膨らんでいました。黒字経営そのものが、皮肉にも承継の壁になっていたのです。
こうした場合に検討したいのが「事業承継税制の特例」です。結論から言うと、この特例は2027年12月末が申請の分かれ目になります。
猶予であって免除ではない
事業承継税制の特例を使うと、自社株にかかる贈与税・相続税の納税が猶予されます。後継者が自社株を先代から引き継ぐ際、本来なら評価額に応じた重い税負担が発生しますが、これを一旦ゼロにできる制度です。
ここで社長が誤解しやすいのが「猶予=免除」ではないという点です。猶予はあくまで「納税を先送りする」措置で、後継者が株式を売却したり会社が廃業したりすれば、猶予されていた税額に利子税を加えて一括納付を求められます。
免除されるのは、後継者が亡くなった場合や、さらに次の世代へ承継した場合など、限定的な事由に該当したときだけです。つまりこの制度は「税金がなくなる制度」ではなく、「代替わりのたびに納税義務をバトンタッチしていく制度」だとイメージしていただくのが実態に近いです。
なぜ2027年末が分かれ目なのか
特例措置を使うには、都道府県に「特例承継計画」を提出し、実際の贈与・相続を2027年12月末までに完了させる必要があります。この期限は過去に延長された経緯がありますが、現時点で再延長の議論は表立って出ていません。
期限を過ぎると一般措置に戻り、猶予対象となる株式数の上限や納税猶予割合が縮小されます。具体的には、特例措置では全株式・納税猶予割合100%が対象になるのに対し、一般措置では発行済議決権株式の3分の2まで、猶予割合も贈与税100%・相続税80%にとどまります。
数千万円単位の差が出るケースも珍しくないため、対象になりそうな会社ほど早めの着手が有利です。
適用にあたって押さえておきたい注意点
特例承継計画の提出だけなら比較的シンプルですが、実際に適用を受けるには後継者の要件、会社の要件、先代経営者の要件など、細かな条件をクリアする必要があります。
また猶予を受けた後も、5年間は毎年、その後は3年ごとに都道府県・税務署への継続届出が必要です。届出を一つ怠るだけで猶予が打ち切られ、利子税付きで一括納税を迫られるケースもあるため、顧問税理士との継続的な連携が欠かせません。
株価が高く、後継者への贈与・相続で多額の税負担が見込まれる会社ほど、この制度の恩恵は大きくなります。一方で、将来的に会社を売却する可能性がある場合は、猶予が打ち切られるリスクも踏まえて判断する必要があります。
自社株の評価額を一度も確認したことがないという社長は、まず現在の株価がどの程度かを顧問税理士に試算してもらうところから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。