先日、製造業を営むA社長から、こんな一言をいただきました。
「コロナ以来、在宅ワークを続けているんですが、Wi-Fiとか電気代とか、ずっと自腹で払ってたんですよね」
思わず聞き返してしまいました。毎月どのくらい?と。
「細かくは計算してないけど、5万円くらいはかかってると思います」
年間60万円です。会社のために使っているお金が、全額ポケットマネーから出ていた。そういう社長、じつはかなり多いんです。
在宅費用は「会社が払うべきもの」
在宅ワークをしているとき、自宅のWi-Fiや電気を使って仕事をしているはずです。それは本来、会社が負担すべきコストです。
ところが「自宅だから会社経費にならない」「プライベートと混じっているから難しい」と思い込んでいる社長が多い。これ、じつは規程の整備次第でほとんど解決できる話なんです。
A社長の場合、税理士にひと言相談した結果、在宅勤務規程を作ることになりました。規程といっても、難しいものではありません。「業務で使った分を会社が実費精算する」という社内ルールを文書化するだけです。
毎月5万円・年間60万円の経費化
規程を整備したA社長が毎月経費化するようになった費用を、具体的に見てみましょう。
自宅Wi-Fiの業務使用分、電気代の業務分按分、プリンターのインクや紙などの消耗品、文房具や机周りの備品──これらを合計すると、毎月5万円ほどになりました。
年間にすると60万円。法人税の実効税率が30%であれば、これが経費になるだけで年間約18万円の節税効果があります。規程を作るのに数時間かかったとして、時給換算は相当なものですよね。
カギは「按分の根拠」を残すこと
ただし、経費化には一つ大事なルールがあります。それが按分の根拠を残すことです。
たとえば電気代であれば「自宅の一室を書斎として使っており、面積比で15%を業務使用とする」という基準を決めます。Wi-Fiであれば「1日8時間のうち業務使用を6時間とし、75%を按分」といった形で計算根拠を持たせる。大切なのは、この根拠が税務調査で説明できることです。
日報や月次の作業記録を残しておくと、「ちゃんと業務で使っていた」という証明になります。逆に言えば、合理的な根拠さえあれば税務署に否認されるリスクはほぼありません。
A社長は規程整備のあと、月次で簡単な実費精算シートを作り、日報と一緒に保管するようにしました。手間は月1回・15分程度とのことです。
やってしまいがちなNG
一点だけ注意しておきたいことがあります。根拠のない按分はNGです。
「なんとなく5割くらい」「家賃の全額を経費にしたい」という発想で処理すると、税務調査で指摘を受けやすくなります。合理的な計算根拠があれば問題ないのですが、恣意的な数字は否認リスクがあります。
また、在宅勤務規程を作っただけで、精算を実際に行わないのも問題です。規程はあくまで「ルールの文書」に過ぎないので、毎月の実費精算という実態が伴っていることが大切です。
まず棚卸しから始めてみてください
在宅ワークをしている社長であれば、まず毎月いくら自腹で払っているかを棚卸ししてみてください。通信費、電気代の業務分、消耗品──意外と積み重なっているはずです。
そのうえで、在宅勤務規程と実費精算ルールの整備を顧問税理士に相談してみましょう。書類を一枚作るだけで、毎月のキャッシュフローが変わる可能性があります。
A社長は「なんで今まで相談しなかったんだろう」とおっしゃっていました。知っているかどうかだけの差です。まだ在宅勤務規程を整備していないなら、今期中に取り組んでおくのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。