先日、自動車部品メーカーを経営する60代の社長から、こんな一言が出ました。「相続って、まだ自分には早い話ですよね」と。
でも、その社長の資産構成を聞いた瞬間、私は思わず前のめりになりました。自社株の評価額が2億円を超えていたからです。相続税の話は「縁起が悪い」と後回しにしがちですが、2027年という明確な期限が迫っている今、知っておくべき節税の仕組みが二つあります。合わせれば500万円以上の差が生まれるケースも珍しくありません。
生命保険の「非課税枠」、使っていますか?
一つ目は、意外と見落とされている生命保険の話です。死亡保険金には、相続税の計算上、非課税になる枠が設けられています。計算式はシンプルで、「500万円 × 法定相続人の数」です。
法定相続人が2人であれば1,000万円、3人なら1,500万円がそのまま非課税になります。現金や不動産をそのまま残すよりも、生命保険に組み替えるだけで税負担が大きく変わる。それがこの制度の肝です。
仮に実効税率が30〜40%の層であれば、1,000万円の非課税効果だけで300〜400万円の節税につながります。資産の組み換えを考えているなら、生命保険は最初に検討すべき選択肢です。
会社オーナーだけが使える制度の話
二つ目は、会社を持つ社長にしか使えない制度です。「事業承継税制の特例措置」といいます。
中小企業の事業承継では、自社株にかかる相続税の負担が後継者を悩ませてきました。業績が良く株価が高いほど、後継者が払う税額も膨らむ。「会社を残したいのに、税金で潰される」という皮肉な状況が起きてきたわけです。
この特例を使えば、後継者が引き継いだ自社株にかかる相続税・贈与税が猶予されます。実質的に、相続税を払わずに株を渡せる可能性があるのです。ただし、2027年12月末までに「特例承継計画」を都道府県に提出することが条件になっています。この期限を過ぎると、特例そのものが使えなくなる可能性が高い。
「まだ大丈夫」が最も危険な思考パターン
相続対策の難しさは、亡くなってからでは何も手が打てないことです。当たり前に聞こえますが、実際にはこれが軽視されています。
生命保険の加入には健康状態の審査があります。持病があったり年齢が上がったりすれば、入れる保険が限られてくる。事業承継の特例も、計画の策定から実行まで数ヶ月以上かかるのが通常です。「2027年まであと1年以上ある」と感じていても、税理士への相談・計画書の作成・金融機関との調整を含めると、今から動き始めてちょうどいいくらいです。
税務署は、教えてくれない
税務署は申告の誤りは指摘しますが、節税のアドバイスはしません。それが税務署という機関の性格です。生命保険の非課税枠も、事業承継の特例措置も、自分から申請・活用しなければ、何も起きないまま期限を迎えます。
知っているかどうかが、そのまま数百万円の差になる。それが相続税の世界です。
2027年の期限が迫る今が、相続対策を見直す大きなタイミングです。まだ顧問税理士と相続の話をしていないなら、ぜひ今期中に一度テーブルに乗せてみてください。動き始めるのが早いほど、選択肢は広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。