先日、ある建設業の社長から、こんな相談を受けました。
「うちの株、ずっとそのままにしてるんだけど、何か問題ある?」
問題、大ありです。その会社は毎年コンスタントに利益を出していて、純資産も順調に積み上がっていました。放置してきた年数を聞いて、正直、背筋が寒くなりました。
業績が良いほど、株の「税額」も膨らむ
上場していない非上場会社の株式は、相続や贈与が発生したタイミングで、税務署が独自のルールで評価額を算定します。評価方法には「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の主に2種類があり、どちらを使うかは会社の規模や状況によって変わります。
問題は、どちらの方式でも、会社の業績が良ければ良いほど、株式の評価額が高くなるという点です。売上が伸びて利益が増えれば、比準方式での評価が上がる。利益を内部留保として積み上げれば、純資産が増えて純資産方式での評価が上がる。「いい会社」であればあるほど、株の相続税評価が高くなる——これが非上場株特有の、少し皮肉な構造です。
3年間で何が起きるか、数字で見てみる
年間利益が3,000万円の会社を例に考えてみましょう。
この会社が何の対策も打たないまま3年が経過すると、利益がそのまま純資産に積み上がって、純資産は約9,000万円増加します。純資産が9,000万円増えると、株式の評価額も大きく跳ね上がり、相続税が数千万円単位で増えることも珍しくありません。
相続税率は最高55%です。評価額が1億円上がれば、単純計算で5,500万円以上の税負担増になり得ます。「なんで会社が儲かっているのに、こんな税金を払わないといけないんだ」という気持ちは十分わかりますが、これが現実です。
評価を下げてから渡すのが鉄則
では、どうすればいいか。結論から言うと、「評価額を下げてから株を動かす」これに尽きます。
代表的な手法が役員退職金の支払いです。退職金を支払うと、その金額がそのまま純資産から減ります。株式の評価算定の直前に適切な金額の退職金を支払えば、評価額を一時的に大きく圧縮できます。損金として計上できるため、法人税の節税効果もある一石二鳥の対策です。
もうひとつが設備投資による資産の組み替えです。現預金のまま積んでいると純資産をそのまま反映しますが、設備や機械に変えることで評価の計算ロジックが変わり、評価額を抑えられるケースがあります。ただし、これは会社の業種・規模・状況によって効果が大きく変わるため、専門家との相談が欠かせません。
大切なのは、どの手法も「承継の直前に急いでやる」のではなく、2〜3年前から計画的に動くことです。退職金の額が税務上妥当かどうか、設備投資のタイミングが評価算定に間に合うか——こうした調整には、時間がかかります。
2027年12月末、この期限だけは忘れないでほしい
事業承継税制の「特例措置」という制度をご存じでしょうか。
この制度を使うと、後継者への株式承継にかかる贈与税・相続税を最大100%猶予・免除できます。中小企業にとっては、事業承継コストを劇的に下げられる可能性がある、非常に強力な制度です。
ただし、この特例措置の適用を受けるためには、事前に「特例承継計画」を都道府県知事に提出する必要があります。そして、その期限が2027年12月末です。
計画書の作成には認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の関与が必要で、書類準備から審査まで数ヶ月かかることもあります。「まだ2年以上ある」と思っているうちに、手続きが間に合わなくなるケースは毎年起きています。
まず「今の株価」を試算してもらうところから
事業承継を考えている社長に、ひとつだけお願いしたいことがあります。今すぐ税理士に「うちの今の株価を試算してほしい」と伝えてください。
毎年の申告データがあれば、概算の評価額はすぐに出せます。その数字を見て、対策が必要かどうかを判断すれば十分です。何も手を打たないまま業績が伸び続けると、その分だけ相続税も増え続けます。
特に50代以降の社長には、「評価が上がりきる前に動く」ことが、経営上の重要な判断のひとつになります。まだ自社株の評価を一度も試算したことがないなら、今期の決算が終わったタイミングで、ぜひ一度確認してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。