先日、創業20年の製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「退職金の節税って、何か使えるものありますか?」

話を聞いてみると、退職金に関する制度を「なんとなく聞いたことはある」レベルで、実際に活用しているものは一つもない状態でした。これ、かなりもったいないんです。

退職金節税には、会社側で使えるもの・個人で使えるもの・引退時に使えるものと、3つのフェーズで別々の制度が用意されています。うまく組み合わせれば、会社と個人の双方で税負担を大きく下げられます。今回は優先度の高い順に整理してみます。

第3位:中退共(中小企業退職金共済)

まず従業員向けの積み立て制度として押さえておきたいのが中退共です。従業員1人あたり月5,000円〜3万円の掛金を設定でき、その全額が会社の損金として認められます。

仮に従業員10人で一人あたり月2万円を積み立てると、年間240万円が経費になる計算です。法人税率30%なら年72万円の節税効果が生まれます。しかも運営は国の外郭団体が担うため、退職金原資の管理が会社の帳簿から切り離される安心感もあります。

ただし、中退共は「従業員向け」の制度です。役員は原則として加入できません。また、一度設定した掛金は減額手続きが煩雑なため、最初は無理のない金額から始めるのが賢明です。

従業員の定着率向上という経営課題と節税を同時に解決できる点で、従業員を抱える会社なら最初に検討したい制度です。

第2位:小規模企業共済

次は役員・個人事業主本人が直接使える制度です。月1,000円〜7万円を積み立て、その全額が所得控除として認められます。年間最大84万円を所得から引けるため、所得の高い役員ほど恩恵が大きくなります。

所得税・住民税の合計税率が40%の方なら、満額積み立てるだけで年33万円以上の節税になる計算です。積み立て期間が長くなるほど累積効果は膨らむので、早く始めるほど有利です。

さらに受け取り時は「退職所得」として扱われます。退職所得は(収入-退職所得控除)÷2という計算式が適用されるため、給与所得や事業所得と比べて税負担がぐっと軽くなります。積み立て時も受け取り時も優遇される制度は珍しく、これだけで始める価値があります。

加入手続きは中小企業基盤整備機構や商工会議所の窓口で行えます。書類も比較的シンプルで、今期の確定申告前に加入すれば当年分から控除が使えます。

第1位:役員退職金

3制度の中で最も金額インパクトが大きいのが、役員退職金です。

計算の基本式は「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」。月額報酬100万円・勤続30年・功績倍率3.0なら、9,000万円が適正な退職金として認められる可能性があります。この金額が会社の損金となり、法人税の大幅な圧縮につながります。

個人側でも有利です。勤続30年の場合、退職所得控除は1,500万円。9,000万円を受け取っても課税対象は(9,000万円-1,500万円)÷2=3,750万円にとどまります。同じ金額を給与で受け取り続けた場合と比べると、税負担の差は歴然です。

特に事業承継やM&Aを検討している社長は、このタイミングを「役員退職金の設計適期」として活用するケースが増えています。会社の利益を圧縮しながら個人資産を形成できる、一石二鳥の手段です。

ただし、過大な退職金は税務調査でねらわれやすい項目の一つです。功績倍率の設定には業界相場・会社規模・実際の経営貢献度を踏まえた根拠資料の整備が欠かせません。設計段階から税理士と連携しておくことを強くおすすめします。

3制度は「組み合わせてナンボ」

この3制度、どれか一つを選ぶものではありません。段階的に整備するのが理想です。

  • 従業員の定着を兼ねて 中退共 を整備する
  • 役員個人の所得圧縮に 小規模企業共済 を満額積み立てる
  • 退職・承継のタイミングで 役員退職金 を設計する

この3ステップを順番に積み上げるだけで、節税効果は会社・個人の両面で着実に積み重なっていきます。

まだ一つも手をつけていない方は、今すぐ加入できる小規模企業共済から始めてみてください。今期の決算・確定申告前に動くだけで、来年の税負担が確実に変わります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。